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大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?
龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授【後編】

[ 2024.3.21 更新 ]

ソーシャル・イノベーションを拡大させる「つながり」

株式会社革靴をはいた猫 代表取締役 魚見航大様
政策学研究科 中森孝文研究科長

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授

-魚見さんが龍谷大学政策学部在学中の2017年に『革靴をはいた猫』を起業されて、これまでを振り返ってどうだったか、中森研究科長とお話ください。

魚見:起業当初は会社経営のノウハウが備わっていなかったので、右往左往しましたね。

中森:私の専門である経営学の観点からは、経営における重要ポイントが3点あります。1つ目は、ユーザーを感動させる、課題を解決できる「価値」の提供。この点については、『革靴をはいた猫』は十二分に満たしています。2つ目はスタッフの育成とモチベーションの維持向上。3つ目は資金管理です。

魚見:スタッフの育成に関しては、一人の職人、正社員として活躍してもらわなくてはならないので、時間がかかってもしっかり教えて、例え失敗しても、お客様に叱られてしまっても仕事を任せました。すると、スタッフの責任感もモチベーションも上がっていったと思います。もちろん、コミュニケーションは大切に、どうしても苦手なことはスタッフ間でフォローし合っています。

中森:信頼して一任する、互いを補完することは、どんな企業の経営や人材マネジメントにも欠かせません。

魚見:資金管理は、なかなか難しいですね。私たちは靴磨きに絶対の自信がありますが、それだけでは経営が成り立ちません。そこで、お客様から依頼いただく靴の中には修理が必要なものが多かったことから、靴の修理も始めました。お客様に喜んでいただけることが増え、経営面からは修理費用を付加できます。

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授

中森:ソーシャル・ビジネスだけでなく、企業にとって大事なことは成長と持続です。そのためには、つねに社会のニーズをキャッチし、自分たちの強みを軸に事業を新たに発展させていくことが必要です。いくら企業規模が大きくても、いくら特別な強みであっても未来永劫ではありませんから。

魚見:新たな発展では、たくさんの人や企業等との「つながり」が大切だと実感しています。その一つが私たちの展開する『手放す貢献プロジェクト』です。靴磨き職人の育てるためには練習用の革靴が必要になります。たくさんの革に触れて磨くことで、繊細な感覚と高い技術が養われていきます。ただ、中古の革靴の調達が大変で、リサイクルショップで購入していたのですが、コストがかかってしまう。考えあぐねていた時、お客様が履かなくなった靴をくださったことでひらめきました。不要になった靴を回収すればお客様は助かる、私たちは練習用の靴を確保して職人を育てられる、靴によっては磨いて修理すれば販売でき、環境問題にも貢献できます。

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授

中森:素晴らしい発想と仕組みですね。社会課題というのは、複雑かつ多様に絡み合っています。同業、異業を問わずに連携し、双方の強みを活かし合っていけば、相乗効果が生まれて想像だにしていなかった多くの価値が生まれることだってあります。

魚見:おっしゃる通りです。ご支援をいただいている百貨店のご協力のもと、靴の寄付回収を実施したところ、わずかな期間で1,000足近くの靴が集まりました。練習用だけでなく、修理した靴の販売もおこなうと「高級な革靴をリーズナブルに買うことができた」「リサイクルに貢献できる」と好評をいただき、うれしかったです。さらに日本屈指の高級紳士靴ブランド「三陽山長」が私たちの取り組みに関心を持ってくださり、『山猫Project』という再生販売とメンテナンス事業を協働で開始しました。

中森:「つながり」による相乗効果ですね。

魚見:はい。今後は『手放す貢献プロジェクト』をさらに拡大し、目標である障がい者の就労・雇用の解決にも活かしていくために、靴磨き・靴修理の教育事業を構想しています。

卒業生も注目。プログラムがソーシャル・イノベーションのアドバンテージに

-対談の最後に2025年から実施される「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」について、ソーシャル・イノベーターの先駆者である魚見さんはどのようにお考えか、中森研究科長とお話ください。

魚見:龍谷大学政策学研究科に進んで、障がい者雇用などの知見を深めることも考えていたので、このプログラムには興味津々。大学院に進学して受講する方が率直にうらやましいです。私が起業時に持ち得なかったビジネスのノウハウを身につけて、ソーシャル・イノベーションに取り組んでいけることは大きな強み、支えになるからです。

中森:現在、プログラムの内容を熟考し、準備を進めていますが、ビジネス的な要素も取り入れていくつもりです。

魚見:大学院は学部からの進学者はもちろん、社会人をはじめとするいろいろな年代、バックボーンを持つ人と出会い、同じ学生として共に学べることもいいですね。ソーシャル・イノベーションにおいて重要な「つながり」を築いていけるのではないでしょうか。

中森:その通りです。知識や知恵の獲得に加えて、将来に役立つネットワークの構築がプログラムの大きな目標でもあります。

魚見:学部・学科、大学院を問わず、龍谷大学は社会貢献や課題解決をめざす学生が集まり、そのためにチャレンジできる土壌がありますよね。私が今こうしてソーシャル・イノベーションの道を歩めているのは、学生時代の講義やPBL(Project Based Learning=課題解決型学習)、充実した課外プログラムでの学びと経験、そして、中森先生をはじめ多種多様な領域の専門家、研究家である先生の指導のおかげです。

中森:そういってもらえると光栄です。2025年からのプログラムへのモチベーションになります。

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授

魚見:つながりという点では、ソーシャル・ベンチャーを経営する政策学部の先輩の影響もありました。

中森:なるほど。ロールモデルとの出会いもソーシャル・イノベーションではポイントになると思います。

魚見:はい。もう一つは起業したら終わりではなく、何度もソーシャル・イノベーションを起こすこと、そのためには経営者が学び、成長し続けることも重要だと思います。私は社会に向けて、常時アンテナを張り巡らせ、何かを察知すれば、それに関する本を読んだり、中森先生をはじめご縁のある専門家にお話を伺ったり、龍谷大学やさまざまな機関で開催されるソーシャル・イノベーションに関するシンポジウムなどに参加したりしています。経営や社会のためはもちろん、自らの学びと成長のためです。

中森:素晴らしいですね。ソーシャル・ベンチャーを立ち上げたい人やソーシャル・イノベーションを起こしたい人、そして、これから政策学研究科に進学して「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」を受講する人にとってとても参考になる点だと思います。今後もソーシャル・イノベーターのロールモデルとして、進学希望者や受講生にアドバイスをお願いします。

魚見:もちろんです。現場からいろいろなことをお伝えしていきたいです。

中森:政策学研究科が提供する既存のプログラムや、現在開発中の「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」から、魚見さんのように社会課題を解決しつつ新たな価値を創造し社会変革を担っていく人々が続々と巣立ってくれることが私たちの願いです。

「ソーシャル・イノベーション」に必要なことは?龍谷大学発のソーシャル・イノベーターと中森政策学研究科長が伝授