—「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」において、琉球大学大学院地域共創研究科は唯一の沖縄県、唯一の国立大学となります。米軍基地をはじめ、沖縄は特有の社会課題を抱えているので、特徴ある学修と議論がかなうと注目や期待を集めています。この点においてのお考えを聞かせてください。
越智:地域共創研究科創設の目的のひとつでもあるのですが、幅広い視野と知識によって自らの専門性を体系化・複層化し、他の人々と「共創」していくことがこれからの社会課題解決に欠かせません。また、私たちは沖縄県というロケーションから、もっと広い世界へ飛び出していくことも必要だったので、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」に参画できたことは、まさに渡りに船でした。
皆さんに注目していただいているように、沖縄は本土とは異なる社会課題が多数存在しています。ただ、私は沖縄で深刻化する子どもの貧困問題も、松田さんが研究しているPFASをはじめ環境問題も、他の地域でも課題となっているかと思います。我那覇さんが研究する島嶼の問題も離島を有する地域であれば課題があるでしょう。私の専門である観光社会学・地域社会学では、沖縄のオーバーツーリズムが問題になっています。これは龍谷大学、京都文教大学がある京都でも同じ問題が発生していますよね。だからこそ、今回の「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」において共に考え、アイデアを出し合っていけば、双方で解決の道が拓けるはずです。
—なるほど。沖縄でも多くの地域が抱える問題、類似した問題が発生しているのですね。
越智:沖縄と他地域の課題は差異はないと申しましたが、解決策を追究していくには、沖縄を根底から理解する必要があるかもしれません。沖縄は本土から見れば島嶼であり、地理的な不利益が生じています。加えて、政治的、経済的に周縁化されてきた歴史と現状があり、深い被傷性を抱えています。また、文化・民俗もさまざまで、現在の多様性から見ると良いことかも知れませんが、例えば、社会統合という観点から本土に軸を置いた施策を実行した場合、反動的なアイデンティティ・ポリティクスといったことが生じる可能性もあります。
松田:私の研究テーマであるPFAS汚染問題について、沖縄県が問題が発覚したことを発表したのは、2016年ですが、それ以前から有害物質が長く放出され続けてきたわけです。沖縄の人々は越智先生がおっしゃった島嶼性、周縁性による困難を「ここに生まれ育ったのだから仕方ない」と受け入れざるを得なかったのではないかと感じます。
我那覇:確かにそうですね。一方で、米軍基地をはじめ異なるものと共存・融合によって、ローカルも観光客も訪れるアメリカの街並みのような「パークアベニュー」といったエリアが存在していたりします。これも守るべき沖縄の文化でもあるのかなと。なので、一概に米軍基地は賛成・反対といえない面もあって、生まれ育った故郷ですが、難しいと思います。
—松田さんの見解も我那覇さんの見解も沖縄の当事者にしか見えない課題ではないでしょうか。そういった気づきを得たうえで、地域共創研究科とお二人が見据える未来やビジョンをお聞かせください。
越智:琉球大学は「Island Wisdom〜島嶼という限られた空間、資源の中で持続的に生活をしていくための智慧〜」という中期未来ビジョンを掲げています。島嶼という逆境的な環境であっても、沖縄の人々は強く生き抜いてきた、社会や文化を守り抜いてきた独自の「智慧」を持っています。課題と魅力が多層的に絡み合った沖縄の現在、未来にこの智慧をどう活用していくか。それには大学院レベルの高度な学びと知見が不可欠だと思うのです。もちろん、「沖縄の智慧」のみに固執するのではなく、今回の「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」による広い視野の獲得と、新しい発想も必要です。
我那覇:「沖縄の智慧」、私の中で腑に落ちる言葉です。先ほど申した他とは違う難しさも、魅力も沖縄は渾然一体です。私は将来、文化施設や博物館で勤務することを希望していますが、こういった施設は本土をはじめ、沖縄自体にもインパクトを与えられる機関だと思うので、地域共創研究科で学びを広げ、深め、施設がある自治体や学校、企業などと連携しながら、「沖縄の智慧」を県内外に発信していき、より良い地域社会づくりに役立ててもらうことができれば、うれしいですね。
松田:私は、PFASをはじめ身近な環境問題などを語り合い、一人ひとりが自分たちはどうしたいのか、どう生きたいのか、ともに考えていける場づくりができたらいいなと思います。多くの苦難の歴史を背負う沖縄は、たくさんの諦めや悔しさを感じてきたと思います。それは、共存せざるを得なかった。そんな呪縛のようなものから解放できることがもっとあるのではないかと思います。
—最後に、どのような人に地域共創研究科に入学してほしいか、5つのプログラム、そして「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」を受講して欲しいかお聞かせください。
越智:ご存知かも知れませんが、一般的にソーシャル・ビジネスは「アメリカ型」「ヨーロッパ型」に区分されています。アメリカ型は社会課題を主観的に設定するアプローチで発展してきました。一方、ヨーロッパ型は社会的排除など社会課題をより厳密に絞り込むアプローチを採ってきました。日本ではどちらかと言うとアメリカ型が多いのですが、私たちがめざすのは、歴史的、経済的、政治的といったあらゆる面から現状の社会構造や社会課題を客観的に捉えて、少しでも良くなる、一歩前に進める解決方法を考え続けるソーシャル・イノベーションです。これには社会や人への真摯な眼差しと、何度もお伝えしている幅広い知識が必要であり、3大学がタッグを組む「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」による学びはプラスになることは間違いありません。このプログラムに対して、地域共創研究科は、これまで積み上げてきた「共学・共創」の仕掛け、そして「沖縄の智慧」を含む知見を提供していきます。
松田さんのように社会で感じた疑問や葛藤を解消するために知見が必要だと実感した人も、我那覇さんのように学部卒業後に社会に出る前に広い視野、知見を獲得したい人もぜひ進学、受講してほしいです。京都をはじめ、全国の未来のソーシャル・イノベーターが沖縄に集い、ディスカッションやフィールドワークをおこなう時も楽しみにしています。
松田:私は30代で大学に入学して、卒業後、社会に出て、また大学院に進学しました。学修するのはいつからでも構わないと思います。
我那覇:大学院進学前は内容が高度になることもあり、少し壁を感じていたのですが、地域共創研究科はとても楽しく学べて、先生からも同じ大学院生からも刺激をもらっています。今は学修、研究と並行して「地域公共政策士」の資格取得をめざしていますが、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」でめざせる「ソーシャル・イノベーション・デザイナー」の認定資格も魅力的です。大学院に対してハードルを感じることはありませんし、松田さんのように社会で新たな知識が必要になったら、再び学んでみたい、資格も取得したいですね。
ありがとうございました。
ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を
【琉球大学大学院 地域共創研究科 座談会 後編】
[ 2025.3.7 更新 ]
—「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」において、琉球大学大学院地域共創研究科は唯一の沖縄県、唯一の国立大学となります。米軍基地をはじめ、沖縄は特有の社会課題を抱えているので、特徴ある学修と議論がかなうと注目や期待を集めています。この点においてのお考えを聞かせてください。
越智:地域共創研究科創設の目的のひとつでもあるのですが、幅広い視野と知識によって自らの専門性を体系化・複層化し、他の人々と「共創」していくことがこれからの社会課題解決に欠かせません。また、私たちは沖縄県というロケーションから、もっと広い世界へ飛び出していくことも必要だったので、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」に参画できたことは、まさに渡りに船でした。
皆さんに注目していただいているように、沖縄は本土とは異なる社会課題が多数存在しています。ただ、私は沖縄で深刻化する子どもの貧困問題も、松田さんが研究しているPFASをはじめ環境問題も、他の地域でも課題となっているかと思います。我那覇さんが研究する島嶼の問題も離島を有する地域であれば課題があるでしょう。私の専門である観光社会学・地域社会学では、沖縄のオーバーツーリズムが問題になっています。これは龍谷大学、京都文教大学がある京都でも同じ問題が発生していますよね。だからこそ、今回の「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」において共に考え、アイデアを出し合っていけば、双方で解決の道が拓けるはずです。
—なるほど。沖縄でも多くの地域が抱える問題、類似した問題が発生しているのですね。
越智:沖縄と他地域の課題は差異はないと申しましたが、解決策を追究していくには、沖縄を根底から理解する必要があるかもしれません。沖縄は本土から見れば島嶼であり、地理的な不利益が生じています。加えて、政治的、経済的に周縁化されてきた歴史と現状があり、深い被傷性を抱えています。また、文化・民俗もさまざまで、現在の多様性から見ると良いことかも知れませんが、例えば、社会統合という観点から本土に軸を置いた施策を実行した場合、反動的なアイデンティティ・ポリティクスといったことが生じる可能性もあります。
松田:私の研究テーマであるPFAS汚染問題について、沖縄県が問題が発覚したことを発表したのは、2016年ですが、それ以前から有害物質が長く放出され続けてきたわけです。沖縄の人々は越智先生がおっしゃった島嶼性、周縁性による困難を「ここに生まれ育ったのだから仕方ない」と受け入れざるを得なかったのではないかと感じます。
我那覇:確かにそうですね。一方で、米軍基地をはじめ異なるものと共存・融合によって、ローカルも観光客も訪れるアメリカの街並みのような「パークアベニュー」といったエリアが存在していたりします。これも守るべき沖縄の文化でもあるのかなと。なので、一概に米軍基地は賛成・反対といえない面もあって、生まれ育った故郷ですが、難しいと思います。
—松田さんの見解も我那覇さんの見解も沖縄の当事者にしか見えない課題ではないでしょうか。そういった気づきを得たうえで、地域共創研究科とお二人が見据える未来やビジョンをお聞かせください。
越智:琉球大学は「Island Wisdom〜島嶼という限られた空間、資源の中で持続的に生活をしていくための智慧〜」という中期未来ビジョンを掲げています。島嶼という逆境的な環境であっても、沖縄の人々は強く生き抜いてきた、社会や文化を守り抜いてきた独自の「智慧」を持っています。課題と魅力が多層的に絡み合った沖縄の現在、未来にこの智慧をどう活用していくか。それには大学院レベルの高度な学びと知見が不可欠だと思うのです。もちろん、「沖縄の智慧」のみに固執するのではなく、今回の「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」による広い視野の獲得と、新しい発想も必要です。
我那覇:「沖縄の智慧」、私の中で腑に落ちる言葉です。先ほど申した他とは違う難しさも、魅力も沖縄は渾然一体です。私は将来、文化施設や博物館で勤務することを希望していますが、こういった施設は本土をはじめ、沖縄自体にもインパクトを与えられる機関だと思うので、地域共創研究科で学びを広げ、深め、施設がある自治体や学校、企業などと連携しながら、「沖縄の智慧」を県内外に発信していき、より良い地域社会づくりに役立ててもらうことができれば、うれしいですね。
松田:私は、PFASをはじめ身近な環境問題などを語り合い、一人ひとりが自分たちはどうしたいのか、どう生きたいのか、ともに考えていける場づくりができたらいいなと思います。多くの苦難の歴史を背負う沖縄は、たくさんの諦めや悔しさを感じてきたと思います。それは、共存せざるを得なかった。そんな呪縛のようなものから解放できることがもっとあるのではないかと思います。
—最後に、どのような人に地域共創研究科に入学してほしいか、5つのプログラム、そして「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」を受講して欲しいかお聞かせください。
越智:ご存知かも知れませんが、一般的にソーシャル・ビジネスは「アメリカ型」「ヨーロッパ型」に区分されています。アメリカ型は社会課題を主観的に設定するアプローチで発展してきました。一方、ヨーロッパ型は社会的排除など社会課題をより厳密に絞り込むアプローチを採ってきました。日本ではどちらかと言うとアメリカ型が多いのですが、私たちがめざすのは、歴史的、経済的、政治的といったあらゆる面から現状の社会構造や社会課題を客観的に捉えて、少しでも良くなる、一歩前に進める解決方法を考え続けるソーシャル・イノベーションです。これには社会や人への真摯な眼差しと、何度もお伝えしている幅広い知識が必要であり、3大学がタッグを組む「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」による学びはプラスになることは間違いありません。このプログラムに対して、地域共創研究科は、これまで積み上げてきた「共学・共創」の仕掛け、そして「沖縄の智慧」を含む知見を提供していきます。
松田さんのように社会で感じた疑問や葛藤を解消するために知見が必要だと実感した人も、我那覇さんのように学部卒業後に社会に出る前に広い視野、知見を獲得したい人もぜひ進学、受講してほしいです。京都をはじめ、全国の未来のソーシャル・イノベーターが沖縄に集い、ディスカッションやフィールドワークをおこなう時も楽しみにしています。
松田:私は30代で大学に入学して、卒業後、社会に出て、また大学院に進学しました。学修するのはいつからでも構わないと思います。
我那覇:大学院進学前は内容が高度になることもあり、少し壁を感じていたのですが、地域共創研究科はとても楽しく学べて、先生からも同じ大学院生からも刺激をもらっています。今は学修、研究と並行して「地域公共政策士」の資格取得をめざしていますが、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」でめざせる「ソーシャル・イノベーション・デザイナー」の認定資格も魅力的です。大学院に対してハードルを感じることはありませんし、松田さんのように社会で新たな知識が必要になったら、再び学んでみたい、資格も取得したいですね。
ありがとうございました。