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大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム

ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を
【琉球大学大学院 地域共創研究科 座談会 前編】

[ 2025.3.3 更新 ]

ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を

出席者 写真右から
琉球大学大学院 地域共創研究科 公共社会プログラム 教授
越智正樹

琉球大学大学院 地域共創研究科 公共社会プログラム
公益財団法人みらいファンド沖縄 勤務
松田可奈子

琉球大学大学院 地域共創研究科 文化・環境プログラム 
我那覇久里夢

—まず越智先生から琉球大学大学院地域共創研究科の特徴をご紹介ください。

越智:琉球大学大学院地域共創研究科は2022(令和4)年度に設立しました。琉球大学の国際地域創造学部と人文社会学部と2つの文系学部が基礎となり、そこに教育学部の教員の一部も加わり、「総合文系研究科」として形成した大学院になっています。
私たちは全学的に「地域とともに豊かな未来社会をデザインする大学」をキャッチフレーズに掲げているのですが、実は文系学部は細分化、専門化が進み過ぎたゆえに、現実の社会ニーズや対峙する社会課題に十分な応答ができていないのではないか。複雑化、多様化する社会課題を解決するには、ひとつの専門では対応できないのではないか。こういったことが全国的に指摘されており、その課題感と議論から地域共創研究科を立ち上げたのです。
地域共創研究科は、「公共社会プログラム」「経済経営プログラム」「言語表象プログラム」「文化・環境プログラム」「臨床心理プログラム」という5つの学位プログラムを設置し、大学院生は1つのプログラムを選択しますが、さきほど申したひとつの専門では社会課題に対応できないという課題から、「異分野協働の機会」を創出するべく、研究科の全員の必修授業として「共学カリキュラム」を用意しています。
専門も、研究も、解決を図る課題も異なる大学院生が一同に集い、学び、有効なディスカッションを重ねるという、学際的、横断的な「共学」が地域共創研究科ならではの大きな特長であり、「高度な専門職業人」を育成・輩出していきます。

ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を

—研究科名の「共創」をまさに実践していらっしゃるのですね。では、地域共創研究科で学ぶ、お二人の進学理由を教えていただけますか。

松田:私は地域共創研究科の公共社会プログラムを専攻し、「社会運動論」を中心に学んでいます。進学のターニングポイントとなったのはコロナ禍です。それまで海外で働いたりしたのですが、沖縄に戻ることになって。そこで、以前から関心のあった環境問題について深く考えました。ヨーロッパであれば、市民による気候会議という取り組みが存在し、気候変動に対して自分たちの意思を提言し、政府が実効性のある形で対応することを知り、市民活動をおこなっていました。その後、現在勤務する市民コミュニティ財団に入職します。ただ、私自身の中で環境や気候の問題は、越智先生がおっしゃったように、ひとつの施策では解決できない、とくに沖縄は社会的、政治的な構造や課題が複雑に絡んでいて、モヤモヤとした気持ちが抑えきれなくなった時に、地域共創研究科の創設を知り、ここなら何か解決のプロセスを学べると思って進学しました。

我那覇:私は琉球大学国際地域創造学部からのストレートマスターです。進学の理由はいくつかあります。私は沖縄の文化施設や博物館、図書館で働きたい夢があり、学部では「沖縄」をテーマに地理学を専攻していました。それでもっと学びたい、研究室の担当教官の教えをまだまだ受けたいと思ったことが進学理由のひとつです。もうひとつは地理学の学びを通じて、沖縄の歴史や文化などの魅力を知るとともに、一方にある島嶼問題にも直面する中で、自らの視野や知識を広げる必要があると思ったのです。そのタイミングで地域共創研究科が設立されました。それまで大学院は自分の専門を縦に掘り下げていくと思っていたのですが、地域共創研究科は横に広げていくとのことで、これは私の思いにぴったりだと進学しました。

—社会課題に向き合うための学際的・横断的な学びによって、専門性を追究していく点に惹かれたのですね。実際にそれは叶えられていますか。

我那覇:もちろんです。越智先生がおっしゃった必修授業はとてもおもしろいですね。学ぶ内容はもちろん、履修する学生も、指導する先生も全員が異なる専攻で、それぞれ研究テーマを持っていらっしゃいます。授業内ではディスカッションをする場面が多く、いろいろな視点、アイデアにふれられることは大変貴重です。自分の学問・研究の論理的な枠組みを見つめ直し、アップデートしていくきっかけにもなります。

越智:それは研究科の狙いでもあるので、大学院生が実感・実践してくれていることはうれしいです。それと、地域共創研究科では、「臨床心理プログラム」以外の4つの学位プログラムで、「修士論文コース」「特定課題コース」の2つのコースを設置しています。このうち「特定課題コース」は、社会に実在する具体的な社会課題に対して、実践的な解決に直接結びつく提言を行うことがミッションで、「ソリューションレポート」にまとめて成果とします。
また、全ての院生が短時間で研究内容を披露しあう「合同発表会」も、毎年行っています。これも「共学・共創の場」としての取り組みですが、私たち教員も新たな発見を得ることができますね。

松田:おっしゃる通りです。私は、ウチナーンチュをテーマに、沖縄と血のつながりのある人や沖縄在住、沖縄が好きな人々が多元的につながる交流団体「ウチナーネットワーク」のデータベースでも語られていないウチナーンチュの言葉をリサーチされた「特定課題コース」の大学院生のレポートがとても興味深く、印象に残っています。

越智:沖縄は独自の文化、言語を形成していることから、琉球大学は「言語学」の研究・知見に優れ、地域共創研究科でも「言語表象プログラム」を設けています。このこともあってか、外国人の大学院生が20%近く学んでいることも特長といえるのではないでしょうか。

我那覇:確かにそうですね。アメリカ、ブラジル、アジアなど多様な国籍の人が在学していますね。私は自分の二つの祖国のルーツを研究するために社会人から進学した日系の大学院生と一緒に学んでいます。

越智:私が担当する観光社会学・地域社会学の観点から、「ソリューションレポート」とは別に、ウチナーンチュの文化・歴史継承のために冊子にまとめて自主発行した大学院生の取り組みも印象的でした。また、沖縄のある地域における経営資源を調査して「まちづくり」と観光振興に役立つリーフレットを何冊も作成する大学院生もいましたね。

—自発的に研究に打ち込まれていることがよくわかります。では、お二人はどのような研究をされているのですか。

松田:私は沖縄県の水道水の「PFAS」の問題について修士論文を執筆する予定です。PFASとは有機フッ素化合物の一種で、発がん性などのリスクが指摘されていることから国際条約で製造・使用が禁止になっています。しかし、沖縄県では米軍基地が使用する泡消火剤などにPFASが含まれていたにも関わらず、河川や下水道に放出されていたことから沖縄の水源、土壌が汚染されてしまいました。このPFASは単なる環境問題ではなく、沖縄が置かれている状況が顕著に現れていることから取り上げることにしました。

ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を

我那覇:私は専攻する地理学の文脈から沖縄県の島嶼における花卉の流通を研究しています。テーマを選ぶきっかけはお花屋さんでアルバイトしていることです。アルバイト先の経営者の方が花について熱心に教えてくださり、花卉市場に同行させていただく機会も設けてくださいました。花はとてもデリケートで、遠く離れた沖縄の島々から沖縄本島に運搬するだけでも課題がたくさんあります。加えて、ハウス栽培などの技術が進化し、沖縄でなくでも熱帯地域の花を通年生産できるようになり、島々の生産者がいかに商品力、競争力を高めていくかにも着目しています。

ソーシャル・イノベーションに沖縄ならではの智慧を

越智:二人とも沖縄に軸を置いていますが、松田さんのテーマであるPFASは米軍基地が在留する地域だけでなく、企業などからの流出の懸念もあって日本各地で問題になっています。我那覇さんのテーマの花卉は、県内だけでなく、本土への流通にも関わっています。また、二人のテーマはまったく違うのですが、深く関連しています。花の生産者にとってPFASで汚染された土壌、水は、花の生育や安全・安心な商品を届ける上での信用にも影響しかねない、まさに死活問題です。このように社会課題は複雑に絡み合い、ひとつの専門では解決が困難です。だからこそ、地域共創研究科が実践する「共学・共創」、そして3大学が連携した「ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」において、「高度な専門職業人」を育成・輩出することが不可欠なのです。

【後編】では、お二人の研究テーマにある社会課題と沖縄だからこその解決ためのアプローチについて、そして、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」への期待などを語り合っていただきます。