2025年10月4日(土)5日(日)龍谷大学深草キャンパス新2号館(灯炬館)にて、日本ソーシャルイノベーション学会の第7回年次大会が開かれ、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」の受講生たちが研究発表をおこないました。
日本ソーシャルイノベーション学会は、ソーシャル・イノベーションの研究者や実践者などの交流と、新たなアイデアの創発をめざして2018年に設立。研究の分科会や実例紹介、議論を目的とした大会を毎年開催しています。
初日のシンポジウムでは、冒頭に龍谷大学政策学部 中森 孝文政策学部長が「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」について解説。参加者からは、画期的な学びによる知識と実践力の証である「ソーシャル イノベーション デザイナー(以下SI-D)」資格を得た受講生たちが多様な社会課題解決を担っていくことに期待が寄せられました。
続いて、龍谷大学 入澤 崇理事長が基調講演。仏教文化学の研究者で、2025年4月まで龍谷大学学長を務めた入澤理事長は、現代社会の課題と教育の役割、大学の使命を整合させ続けてきました。「人間の自己中心性が山積する課題の要因であり、つねにわが身を省みて、他者のために、社会のために尽くす龍谷大学の行動哲学『自省利他』が解決の軸になる」と強く訴えかけ、龍谷大学や学生が取り組む数々のソーシャル・イノベーションを紹介しました。
シンポジウムの最後のパネルディスカッションは、学会の理事でもある龍谷大学政策学部 大石 尚子教授がモデレーターを務め、入澤理事長と3大学連携の京都文教大学大学院臨床心理学研究科 濱野 清志研究科長、企業家研究・ソーシャル・イノベーション論が専門の東京都立大学大学院経営学研究科 高橋 勅徳准教授、生態人類学・環境民俗学が専門の琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科 高橋 そよ准教授が登壇。3人が研究内容を紹介した後、大会のテーマ「共生とソーシャル・イノベーション:人と社会の成長を問い直す」について5人で議論しました。
このシンポジウムには受講生も参加。講演やパネリストたちの話に聞き入り、熱心にメモを取る姿が印象的でした。
学会で研究発表という貴重な機会も受講生の成長の糧に
大会の2日目は研究発表や分科会がおこなわれ、受講生たちがSI-D資格取得に必要なキャップストーン科目である「ソーシャル・イノベーション実践演習」での研究内容を発表しました。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」では、理論をどう実践していくのか、人口減少や地域間格差、共生社会問題といった実際の地域課題について、3大学院の受講生が4つのチームに分かれて研究調査。社会的要因や解決につながるポテンシャルを見出し、12月に開催される最終発表会で新たなアイデアを提案します。
今回の学会発表に先駆け2025年7月5日(土)に琉球大学附属図書館 ラーニング・コモンズにて、研究調査の中間発表会を開催。教員たちからのアドバイスを受けた各チームの受講生は、最終発表会を見据えながら、学会での発表に向けて、この3カ月間、内容を深化させてきました。
各チームの研究内容と中間発表からの深化ポイントを発表順に紹介します。
「醍醐の活性化―醍醐未来創生プロジェクト―」(醍醐チーム)
メンバー/SU JIA、馬玉成、北野嘉秀、大門祥一郎、森田博史(龍谷大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
京都市伏見区にある醍醐地域の活性化プロジェクトを考えるにあたり、1970年代以降に開発された大規模団地の入居者減少の要因として、高齢化や団地の老朽化に伴う転出、地域へのネガティブなイメージといった醍醐地域特有の問題点を実地調査により抽出。課題解決に向け、地域に有す世界遺産・醍醐寺を軸とした観光・文化的価値によるイメージアップ戦略、京都市が進める「山科・醍醐活性化プロジェクト」との連携、以前あった東部クリーンセンターの跡地活用など、幅広いアイデアを提案する。
〈中間発表会での考察点〉
醍醐地区と同様の課題を解決した地域との比較調査が必要。さらに3大学連携のメリットを活かし、都市開発の分析、入居者の心理、老朽化した団地を擬人化・人格化しての分析も新たなアイデア創出へのユニークな視点になるのでは。
〈深化ポイント〉
団地を人に見立てるとのアドバイスを受け、「醍醐」の性格を掘り下げ。他にはない醍醐のオーセンティシティを資源、価値にしていくため、住民に醍醐の魅力や問題点をヒアリング。地蔵盆や地域祭り、コミュニティ活動といった住民に根差した文化も大切な資源のひとつとして解決策に結びつける。
新たに集合団地の活性化事例(京都市の堀川団地、福岡市の冷泉荘)を調査して参照。創出した解決策を実装するためのクラウドファンディングなども検討する。
「ファイナンスによる京町家課題解決」(ファイナンスチーム)
メンバー/山本安紋、オウ シュンカン、米丸隼太(龍谷大学大学院)、山中智子(京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
1950(昭和25)年以前に建てられた京都特有の木造建築物「京町家」の課題をファイナンスで解決する。京町家は年々減少傾向にあり、京のアイデンティティを脅かしかねない。保存や再生の条例・制度が施行されているものの、維持管理や相続の難しさがあり、現実的かつ具体的な施策としてファイナンスによる支援が不可欠。実現には、入居者にも社会全体にも「京町家」の文化的・歴史的価値を高めていくアイデアが必要と考える。
〈中間発表会での考察点〉
京町家の商業的価値の高まりによる税制や賃料の高騰、耐震問題といった社会構造が複雑に絡んでいるために、今後はどこに手をつけるべきかを焦点を絞ることが重要。歴史的建築物の保全・継承を推進するイギリスやイタリアなど海外の事例との比較検討も有効では。
〈深化ポイント〉
中間発表会での指摘を受け、所有者への意識調査から改めて検討事項を熟考した結果、管理や相続が大変だが、維持していきたい、住み続けたいとの思いと、観光業に偏り商業化する京都の街の中に「町家=人の住まい」を保存・継承することへの矛盾点が浮上。解決策として、所有者に「残したい」思いがある京町家、相続や制度の問題によって滅失の危機にある京町家の2点に絞って資金支援策を創案。「人が住むための建物」である町家本来の形、「住居」としての活用、所有者、利用者、京都市、関係企業等、関係者全員の利益となることをめざす。
「学びの多様性と教育をめぐる課題 ~発達障がい者のキャリア形成に関する現状と課題、支援の「つながり」について~」(学びの多様性班)
メンバー/成松正樹(龍谷大学大学院)、金田佳宏、山入端力也(琉球大学大学院)、横山温子(京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
発達障がいの子どもたちの教育とキャリア形成の課題を解決していく。発達障がい児童の教育・支援活動を行う株式会社サイクロス「あすはな先生」や、学校現場で活躍する臨床心理士などへのインタビューを実施し、発達障がいへの社会認知度の低さ、専門的な教育機関や受け入れ体制、支援策の不足といった課題を分析。発達障がいや発達特性のある子どもと保護者、教育・支援機関、就労可能な企業や組織を「つなぐ」社会的システムの構築をめざす。
〈中間発表会での考察点〉
発達障がいの方との共生・支援は、社会構造や社会的価値の問題、日本の教育制度の問題など幅広い要素が複雑に絡み、児童教育期、高等教育期と、成長段階によっても方法が異なるため、プロジェクトの焦点をキャリア形成か、教育におけるキャリア形成を明確にすべき。発達特性のある方たちとの共生が進む北欧を参考に、日本においても「分ける教育」に代わる、誰もがともに学び合えるインクルーシブな教育のあり方を探る必要がある。
〈深化ポイント〉
教育関係者へのインタビュー、就労支援現場への調査などを実施。多様な学びが制度的・文化的に保障されておらず、適切な教育機会を得られない、教育から就労までの支援が点として存在し、線で繋がっておらず、本人や家族が安心してキャリアを描けない、発達障がいへの固定観念やラベリングにより、支援の質が低下しているといった課題を抽出。健常者も障がい者も、それぞれが得意不得意を持った「人」として繋がり、強みを活かしていける社会の実現に向け、『気づけば、学びが多様になっていた』をキーワードに、社会・教育・企業・地域が「互いに学び合う姿勢の糸」で繋がっていくアイデアを策定する。
「障がい者雇用の現況と地域資源の発掘」(障がい者雇用チーム)
メンバー/西口高貴 、林リエ (龍谷大学大学院)、安里恵美 (琉球大学大学院)、橘今日子 (京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
障がい者の働き方、働く場の課題解決をめざす。非正規雇用などの不安定な雇用・労働条件のもとで働く人が未だ少なくないなど、資本主義的合理性をはじめ、さまざまな場面で障がい者が排除される社会構造そのものを変えるためのアイデアを見い出す。その成功事例である沖縄県北中城村でバニラビーンズの栽培において障がい者雇用事業を展開するソルファコミュニティを調査し、希少性の高いバニラビーンズによる収益が事業・雇用を支え、地域の人たちとの交流や協働が地域活性化にもつながっていることに着目。これからの障がい者雇用を生み出すには、地域の物的・人的資源を活かす、特に「人のつながり」を形成することが重要であると分析。
〈中間発表会での考察点〉
農業という仕事は、作業を細分化しやすく、障がいがあっても就労が可能なため福祉との親和性が高い。障がい者の雇用と地域の理解には困難もあるが、ソルファコミュニティ代表・玉城 卓氏の軽やかな姿勢も成功の要因ではないか。
〈深化ポイント〉
玉城氏の農園で働く人たち、地域の人たちに加えて、農園のバニラビーンズを使う大手パティスリーへインタビューを行い、沖縄に根づく「ゆいまーる(互いに助け合うこと、相互扶助の精神)」というポテンシャル、そして障がいの有無、年齢、性別、国籍などにかかわらず、すべての人が互いを尊重・理解し、支え合いながら生きていく「共生」が障がい者の雇用の力になることを再認識。障がい者と健常者の差を社会的・文化的・心理的に分析し、全員が生き生きと働けているのかという視点を持つことなど、差を超える新しい価値の創出をめざす。その一つとして、自治体や企業などに「楽しい課」を作る、役割や枠組みにとらわれない「何でもできるふらふら課長」の導入なども検討。農園で働く人たちのストーリーを紡ぐ「ナラティブアプローチ」を完成させる。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」研究発表会
[ 2025.12.22 更新 ]
2025年10月4日(土)5日(日)龍谷大学深草キャンパス新2号館(灯炬館)にて、日本ソーシャルイノベーション学会の第7回年次大会が開かれ、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」の受講生たちが研究発表をおこないました。
日本ソーシャルイノベーション学会は、ソーシャル・イノベーションの研究者や実践者などの交流と、新たなアイデアの創発をめざして2018年に設立。研究の分科会や実例紹介、議論を目的とした大会を毎年開催しています。
初日のシンポジウムでは、冒頭に龍谷大学政策学部 中森 孝文政策学部長が「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」について解説。参加者からは、画期的な学びによる知識と実践力の証である「ソーシャル イノベーション デザイナー(以下SI-D)」資格を得た受講生たちが多様な社会課題解決を担っていくことに期待が寄せられました。
続いて、龍谷大学 入澤 崇理事長が基調講演。仏教文化学の研究者で、2025年4月まで龍谷大学学長を務めた入澤理事長は、現代社会の課題と教育の役割、大学の使命を整合させ続けてきました。「人間の自己中心性が山積する課題の要因であり、つねにわが身を省みて、他者のために、社会のために尽くす龍谷大学の行動哲学『自省利他』が解決の軸になる」と強く訴えかけ、龍谷大学や学生が取り組む数々のソーシャル・イノベーションを紹介しました。
シンポジウムの最後のパネルディスカッションは、学会の理事でもある龍谷大学政策学部 大石 尚子教授がモデレーターを務め、入澤理事長と3大学連携の京都文教大学大学院臨床心理学研究科 濱野 清志研究科長、企業家研究・ソーシャル・イノベーション論が専門の東京都立大学大学院経営学研究科 高橋 勅徳准教授、生態人類学・環境民俗学が専門の琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科 高橋 そよ准教授が登壇。3人が研究内容を紹介した後、大会のテーマ「共生とソーシャル・イノベーション:人と社会の成長を問い直す」について5人で議論しました。
このシンポジウムには受講生も参加。講演やパネリストたちの話に聞き入り、熱心にメモを取る姿が印象的でした。
学会で研究発表という貴重な機会も受講生の成長の糧に
大会の2日目は研究発表や分科会がおこなわれ、受講生たちがSI-D資格取得に必要なキャップストーン科目である「ソーシャル・イノベーション実践演習」での研究内容を発表しました。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」では、理論をどう実践していくのか、人口減少や地域間格差、共生社会問題といった実際の地域課題について、3大学院の受講生が4つのチームに分かれて研究調査。社会的要因や解決につながるポテンシャルを見出し、12月に開催される最終発表会で新たなアイデアを提案します。
今回の学会発表に先駆け2025年7月5日(土)に琉球大学附属図書館 ラーニング・コモンズにて、研究調査の中間発表会を開催。教員たちからのアドバイスを受けた各チームの受講生は、最終発表会を見据えながら、学会での発表に向けて、この3カ月間、内容を深化させてきました。
各チームの研究内容と中間発表からの深化ポイントを発表順に紹介します。
「醍醐の活性化―醍醐未来創生プロジェクト―」(醍醐チーム)
メンバー/SU JIA、馬玉成、北野嘉秀、大門祥一郎、森田博史(龍谷大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
京都市伏見区にある醍醐地域の活性化プロジェクトを考えるにあたり、1970年代以降に開発された大規模団地の入居者減少の要因として、高齢化や団地の老朽化に伴う転出、地域へのネガティブなイメージといった醍醐地域特有の問題点を実地調査により抽出。課題解決に向け、地域に有す世界遺産・醍醐寺を軸とした観光・文化的価値によるイメージアップ戦略、京都市が進める「山科・醍醐活性化プロジェクト」との連携、以前あった東部クリーンセンターの跡地活用など、幅広いアイデアを提案する。
〈中間発表会での考察点〉
醍醐地区と同様の課題を解決した地域との比較調査が必要。さらに3大学連携のメリットを活かし、都市開発の分析、入居者の心理、老朽化した団地を擬人化・人格化しての分析も新たなアイデア創出へのユニークな視点になるのでは。
〈深化ポイント〉
団地を人に見立てるとのアドバイスを受け、「醍醐」の性格を掘り下げ。他にはない醍醐のオーセンティシティを資源、価値にしていくため、住民に醍醐の魅力や問題点をヒアリング。地蔵盆や地域祭り、コミュニティ活動といった住民に根差した文化も大切な資源のひとつとして解決策に結びつける。
新たに集合団地の活性化事例(京都市の堀川団地、福岡市の冷泉荘)を調査して参照。創出した解決策を実装するためのクラウドファンディングなども検討する。
「ファイナンスによる京町家課題解決」(ファイナンスチーム)
メンバー/山本安紋、オウ シュンカン、米丸隼太(龍谷大学大学院)、山中智子(京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
1950(昭和25)年以前に建てられた京都特有の木造建築物「京町家」の課題をファイナンスで解決する。京町家は年々減少傾向にあり、京のアイデンティティを脅かしかねない。保存や再生の条例・制度が施行されているものの、維持管理や相続の難しさがあり、現実的かつ具体的な施策としてファイナンスによる支援が不可欠。実現には、入居者にも社会全体にも「京町家」の文化的・歴史的価値を高めていくアイデアが必要と考える。
〈中間発表会での考察点〉
京町家の商業的価値の高まりによる税制や賃料の高騰、耐震問題といった社会構造が複雑に絡んでいるために、今後はどこに手をつけるべきかを焦点を絞ることが重要。歴史的建築物の保全・継承を推進するイギリスやイタリアなど海外の事例との比較検討も有効では。
〈深化ポイント〉
中間発表会での指摘を受け、所有者への意識調査から改めて検討事項を熟考した結果、管理や相続が大変だが、維持していきたい、住み続けたいとの思いと、観光業に偏り商業化する京都の街の中に「町家=人の住まい」を保存・継承することへの矛盾点が浮上。解決策として、所有者に「残したい」思いがある京町家、相続や制度の問題によって滅失の危機にある京町家の2点に絞って資金支援策を創案。「人が住むための建物」である町家本来の形、「住居」としての活用、所有者、利用者、京都市、関係企業等、関係者全員の利益となることをめざす。
「学びの多様性と教育をめぐる課題 ~発達障がい者のキャリア形成に関する現状と課題、支援の「つながり」について~」(学びの多様性班)
メンバー/成松正樹(龍谷大学大学院)、金田佳宏、山入端力也(琉球大学大学院)、横山温子(京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
発達障がいの子どもたちの教育とキャリア形成の課題を解決していく。発達障がい児童の教育・支援活動を行う株式会社サイクロス「あすはな先生」や、学校現場で活躍する臨床心理士などへのインタビューを実施し、発達障がいへの社会認知度の低さ、専門的な教育機関や受け入れ体制、支援策の不足といった課題を分析。発達障がいや発達特性のある子どもと保護者、教育・支援機関、就労可能な企業や組織を「つなぐ」社会的システムの構築をめざす。
〈中間発表会での考察点〉
発達障がいの方との共生・支援は、社会構造や社会的価値の問題、日本の教育制度の問題など幅広い要素が複雑に絡み、児童教育期、高等教育期と、成長段階によっても方法が異なるため、プロジェクトの焦点をキャリア形成か、教育におけるキャリア形成を明確にすべき。発達特性のある方たちとの共生が進む北欧を参考に、日本においても「分ける教育」に代わる、誰もがともに学び合えるインクルーシブな教育のあり方を探る必要がある。
〈深化ポイント〉
教育関係者へのインタビュー、就労支援現場への調査などを実施。多様な学びが制度的・文化的に保障されておらず、適切な教育機会を得られない、教育から就労までの支援が点として存在し、線で繋がっておらず、本人や家族が安心してキャリアを描けない、発達障がいへの固定観念やラベリングにより、支援の質が低下しているといった課題を抽出。健常者も障がい者も、それぞれが得意不得意を持った「人」として繋がり、強みを活かしていける社会の実現に向け、『気づけば、学びが多様になっていた』をキーワードに、社会・教育・企業・地域が「互いに学び合う姿勢の糸」で繋がっていくアイデアを策定する。
「障がい者雇用の現況と地域資源の発掘」(障がい者雇用チーム)
メンバー/西口高貴 、林リエ (龍谷大学大学院)、安里恵美 (琉球大学大学院)、橘今日子 (京都文教大学大学院)
〈研究内容と課題解決に向けて〉
障がい者の働き方、働く場の課題解決をめざす。非正規雇用などの不安定な雇用・労働条件のもとで働く人が未だ少なくないなど、資本主義的合理性をはじめ、さまざまな場面で障がい者が排除される社会構造そのものを変えるためのアイデアを見い出す。その成功事例である沖縄県北中城村でバニラビーンズの栽培において障がい者雇用事業を展開するソルファコミュニティを調査し、希少性の高いバニラビーンズによる収益が事業・雇用を支え、地域の人たちとの交流や協働が地域活性化にもつながっていることに着目。これからの障がい者雇用を生み出すには、地域の物的・人的資源を活かす、特に「人のつながり」を形成することが重要であると分析。
〈中間発表会での考察点〉
農業という仕事は、作業を細分化しやすく、障がいがあっても就労が可能なため福祉との親和性が高い。障がい者の雇用と地域の理解には困難もあるが、ソルファコミュニティ代表・玉城 卓氏の軽やかな姿勢も成功の要因ではないか。
〈深化ポイント〉
玉城氏の農園で働く人たち、地域の人たちに加えて、農園のバニラビーンズを使う大手パティスリーへインタビューを行い、沖縄に根づく「ゆいまーる(互いに助け合うこと、相互扶助の精神)」というポテンシャル、そして障がいの有無、年齢、性別、国籍などにかかわらず、すべての人が互いを尊重・理解し、支え合いながら生きていく「共生」が障がい者の雇用の力になることを再認識。障がい者と健常者の差を社会的・文化的・心理的に分析し、全員が生き生きと働けているのかという視点を持つことなど、差を超える新しい価値の創出をめざす。その一つとして、自治体や企業などに「楽しい課」を作る、役割や枠組みにとらわれない「何でもできるふらふら課長」の導入なども検討。農園で働く人たちのストーリーを紡ぐ「ナラティブアプローチ」を完成させる。