農村の課題は都市、日本、世界と表裏一体。
だからこそソーシャルイノベーションを!
今、日本の農村部は、人口減少や高齢化、産業の担い手不足といった、さまざまな課題に直面している。これらを解決していくには、従来型の支援や対策ではなく、新たなアプローチと仕組みづくり、まさに「ソーシャルイノベーション」が不可欠となっている。
「農村政策研究」は、本プログラムの基礎科目として開講。日本の農村再生に必要とされる政策と持続可能な社会の実現のために、農村地域に求められるソーシャルイノベーションとは何かを学んでいく。
科目の目的
「食と農は人間の生存とアイデンティティの根幹に関わるものであり、農業の在り方は、私たちの暮らし、生命にも直結します。受講生には人間が人間らしく生きる上での食と農の重要性に気づいてほしいと思っています」(大石教授)
STEP1 食と農の問題を幅広く考える
授業は、パワーポイントを用いた講義を軸に、大石教授と受講生のディスカッションも含む双方向のアクティブ・ラーニングによって進められていく。
まず導入部として、日本を含むグローバルな食と農の問題を学習。その後、気候変動や自然破壊、生物多様性の喪失といった人類の活動が地球に与える影響について「これ以上超えてはならない限界」を示すプラネタリーバウンダリー※2の指標からも食と農の問題の検証を重ねていく。
その理由とは
「ソーシャルイノベーションというと、都市部の課題に注目が集まりがちですが、都市と農村の問題は表裏一体の関係にあります。人口減少や高齢化、気候変動などは農村地域で顕著に現れ、大量生産、大量消費、大量廃棄という現代社会と都市部の暮らしが大きく影響しているのです」(大石教授)
STEP2 食と農の課題解決を図る先行事例の学習
京都府の特産品である「九条ねぎ」の6次産業化※3により雇用創出や農業担い手育成を実現した事例、総務省が実施している「地域おこし協力隊※4」の制度を活用し、地方での起業家育成や地域課題の解決を推進する組織「ネクストコモンズラボ」の取り組みなどが挙げられた。
さらに大石教授がイタリアでリサーチした欧州連合の農村開発政策Leaderプログラムによる農村コミュニティ再生の取り組み、イタリアで盛んなアグリツーリズム(グリーン・ツーリズム)についても学びを深めた。
その目的とは
「課題解決のための方法は一つではありません。多面的な効果をめざすためにも、こうしたグロ−バルな視座を持った上で、対象を日本の農村に移していくことが必要だからです」(大石教授)
STEP3 現地視察
講義で学んだ知識を実践するために、現地視察(フィールドワーク)が終盤に設定されていることがこの科目の特長である。2026年度の視察先には京都府綾部市が選ばれた。
綾部市は同市出身者が食べる分だけの小さな農業を営みながら、仕事をはじめ自分の好きなことに打ち込んで暮らしていく「半農半X※5」という生き方を提唱したことで話題に。これに当時の市長が賛同し、全国に先駆けて、移住を重要な政策に位置づけ。「移住立国あやべ」を掲げ、住居や就労の斡旋をはじめとする移住支援を官民一体でおこなっている。実は大石教授も綾部市で「半農半X」を実践する移住者の一人である。
現地視察にあたって、受講生たちは綾部市の移住政策などについて事前学習。2026年5月下旬に現地を訪れた。
綾部市の豊かな里山と農村の暮らしに触れ、「半農半X」を実践する3人のキーパーソンにインタビューをおこなった受講生たち。この時、琉球大学の受講生に向けてはSNSのライブ機能を活用し、生中継のような形で参加できる工夫もなされた。
STEP4 現地視察報告会
現地視察を終えて、受講生たちは綾部市に移住した「半農半X」の実践者の取り組みや暮らし方などについての感想と考察を発表する報告会をおこなった。
1「放牧豚」による休耕田活用と持続可能な農業の実現
アニマルウェルフェア(動物福祉)※6にも沿った、新たな養豚・放牧豚に取り組む移住者を訪問。綾部の耕作放棄地で2頭〜10頭ほどの豚を放し飼い。水は農業用水、飼料は近隣の農産物を活用し、安心・安全。豚が土を掘り返して、草や根を食べることで耕すことができる、糞尿が堆肥になるため、耕作地として再活用できることもメリット。のびのびと育つので肉質が大変良く、市場で高値が付くことから生活基盤を築ける。
●受講生の感想
- 「豚がとても可愛くて、近隣の高齢者の方が毎日のようにエサをやりにくることで、住民同士のあたたかなコミュニケーションの場になっていた」
- 「畜産にはニオイなどの問題から事業開始には反対されるケースが少なくない。しかし、綾部市のサポートも受けながら地域に溶け込み、豚はニオイがしにくいといったエビデンスを示すなど対話を重ねたことが理解に繋がったと思う」
- 「豚肉だけでなく、ラードなども商品化すれば、価値がさらに上がり、収益を得られるのでは」
2「農泊」で真の豊かな暮らしを再確認。日本の衣食住も発信
都会での贅沢な生活に疑問を感じたご夫婦が人生を見つめ直し、綾部に移住。小さな自給農を営み、一汁一菜をいただくシンプルだが丁寧な暮らしに真の豊かさがあることを再確認。これを多くの人に伝えたいと「農泊」をスタート。半農半Xの象徴的なモデルとしても注目されている。
●受講生の感想
- 「自分たちが食べるものを手間暇かけて育てることを楽しんでおられた。農業に関心があるので共感できた」
- 「昔ながらの生活、田んぼをはじめ田舎の自然などの発信拠点となっており、農泊の宿泊者の大半が外国人ということに驚いた。文化交流や観光資源という点から見ても、飾らない日本に価値があることを学んだ」
3キャリアを活用して移住プロジェクトを推進
大手広告代理店を早期退職し、綾部市に移住。「自給自立」を目指して、小さな農業に取り組みながら、広報・広告の知見を活かして、綾部市の魅力を発信。綾部市と連携して「移住立国プロジェクト」を企画・推進している。
●受講生の感想
- 「移住には相当の覚悟と決断が必要だと思うが、経験談を発信し、行政や移住者に相談できる仕組みをつくられたことは素晴らしいと思う」
- 「移住には一定の規定を設けている自治体もあるが、広く門戸を開き、受け入れている綾部市の移住制度の魅力を改めて認識できた」
●移住政策を学習、視察してみての気づき、課題
- 「本当に生活していけるのか」
- 「地域特有の文化や人付き合いに馴染めるのか」
- 「持続可能な農業とは何か、どんな方法があるのか」
- 「自治体によって地域に対する取り組みの熱量、政策そのものに差があるのでは」
- 「移住には情報・知識・準備・理解、そして覚悟が必要」
授業の総括
「農村政策研究というこの科目を通じて、食と農の問題は他人事ではない、農村、都市、日本と、一方向ではなく、多角的に考えられるようになったと思います。農村には課題が山積していますが、だからこそ“ソーシャルイノベーションの種”にあふれているのではないでしょうか。食と農のソーシャルイノベーションは、生物、社会、そして地球を未来へと繋ぐことです。受講生たちが農村の課題を見出し、新たな仕組みを創出していくことを期待しています」(大石教授)
授業紹介
農村政策研究
担当教員/政策学研究科 大石尚子教授
阪神・淡路大震災での被災から都市社会の危うさを痛感。
「人間として必要な生きる力」を求め、食と農を通じたソーシャルイノベーションをテーマに、地域再生の研究に取り組んでいる。また、染織作家としての活動経験もあり、その時に渡ったイタリアで出合った、社会運動・スロー・フード※1に着想を得て、「種から布へ」をコンセプトに、植物などの原料を育て、衣服を作る「スロー・クローズ」を自ら確立し、提唱。独自の視点による持続可能な農業やライフスタイルの実践に注力している。
農村の課題は都市、日本、世界と表裏一体。
だからこそソーシャルイノベーションを!
今、日本の農村部は、人口減少や高齢化、産業の担い手不足といった、さまざまな課題に直面している。これらを解決していくには、従来型の支援や対策ではなく、新たなアプローチと仕組みづくり、まさに「ソーシャルイノベーション」が不可欠となっている。
「農村政策研究」は、本プログラムの基礎科目として開講。日本の農村再生に必要とされる政策と持続可能な社会の実現のために、農村地域に求められるソーシャルイノベーションとは何かを学んでいく。
科目の目的
「食と農は人間の生存とアイデンティティの根幹に関わるものであり、農業の在り方は、私たちの暮らし、生命にも直結します。受講生には人間が人間らしく生きる上での食と農の重要性に気づいてほしいと思っています」(大石教授)
STEP1 食と農の問題を幅広く考える
授業は、パワーポイントを用いた講義を軸に、大石教授と受講生のディスカッションも含む双方向のアクティブ・ラーニングによって進められていく。
まず導入部として、日本を含むグローバルな食と農の問題を学習。その後、気候変動や自然破壊、生物多様性の喪失といった人類の活動が地球に与える影響について「これ以上超えてはならない限界」を示すプラネタリーバウンダリー※2の指標からも食と農の問題の検証を重ねていく。
その理由とは
「ソーシャルイノベーションというと、都市部の課題に注目が集まりがちですが、都市と農村の問題は表裏一体の関係にあります。人口減少や高齢化、気候変動などは農村地域で顕著に現れ、大量生産、大量消費、大量廃棄という現代社会と都市部の暮らしが大きく影響しているのです」(大石教授)
STEP2 食と農の課題解決を図る先行事例の学習
京都府の特産品である「九条ねぎ」の6次産業化※3により雇用創出や農業担い手育成を実現した事例、総務省が実施している「地域おこし協力隊※4」の制度を活用し、地方での起業家育成や地域課題の解決を推進する組織「ネクストコモンズラボ」の取り組みなどが挙げられた。
さらに大石教授がイタリアでリサーチした欧州連合の農村開発政策Leaderプログラムによる農村コミュニティ再生の取り組み、イタリアで盛んなアグリツーリズム(グリーン・ツーリズム)についても学びを深めた。
その目的とは
「課題解決のための方法は一つではありません。多面的な効果をめざすためにも、こうしたグロ−バルな視座を持った上で、対象を日本の農村に移していくことが必要だからです」(大石教授)
STEP3 現地視察
講義で学んだ知識を実践するために、現地視察(フィールドワーク)が終盤に設定されていることがこの科目の特長である。2026年度の視察先には京都府綾部市が選ばれた。
綾部市は同市出身者が食べる分だけの小さな農業を営みながら、仕事をはじめ自分の好きなことに打ち込んで暮らしていく「半農半X※5」という生き方を提唱したことで話題に。これに当時の市長が賛同し、全国に先駆けて、移住を重要な政策に位置づけ。「移住立国あやべ」を掲げ、住居や就労の斡旋をはじめとする移住支援を官民一体でおこなっている。実は大石教授も綾部市で「半農半X」を実践する移住者の一人である。
現地視察にあたって、受講生たちは綾部市の移住政策などについて事前学習。2026年5月下旬に現地を訪れた。
綾部市の豊かな里山と農村の暮らしに触れ、「半農半X」を実践する3人のキーパーソンにインタビューをおこなった受講生たち。この時、琉球大学の受講生に向けてはSNSのライブ機能を活用し、生中継のような形で参加できる工夫もなされた。
STEP4 現地視察報告会
現地視察を終えて、受講生たちは綾部市に移住した「半農半X」の実践者の取り組みや暮らし方などについての感想と考察を発表する報告会をおこなった。
1「放牧豚」による休耕田活用と持続可能な農業の実現
アニマルウェルフェア(動物福祉)※6にも沿った、新たな養豚・放牧豚に取り組む移住者を訪問。綾部の耕作放棄地で2頭〜10頭ほどの豚を放し飼い。水は農業用水、飼料は近隣の農産物を活用し、安心・安全。豚が土を掘り返して、草や根を食べることで耕すことができる、糞尿が堆肥になるため、耕作地として再活用できることもメリット。のびのびと育つので肉質が大変良く、市場で高値が付くことから生活基盤を築ける。
●受講生の感想
2「農泊」で真の豊かな暮らしを再確認。日本の衣食住も発信
都会での贅沢な生活に疑問を感じたご夫婦が人生を見つめ直し、綾部に移住。小さな自給農を営み、一汁一菜をいただくシンプルだが丁寧な暮らしに真の豊かさがあることを再確認。これを多くの人に伝えたいと「農泊」をスタート。半農半Xの象徴的なモデルとしても注目されている。
●受講生の感想
3キャリアを活用して移住プロジェクトを推進
大手広告代理店を早期退職し、綾部市に移住。「自給自立」を目指して、小さな農業に取り組みながら、広報・広告の知見を活かして、綾部市の魅力を発信。綾部市と連携して「移住立国プロジェクト」を企画・推進している。
●受講生の感想
●移住政策を学習、視察してみての気づき、課題
授業の総括
「農村政策研究というこの科目を通じて、食と農の問題は他人事ではない、農村、都市、日本と、一方向ではなく、多角的に考えられるようになったと思います。農村には課題が山積していますが、だからこそ“ソーシャルイノベーションの種”にあふれているのではないでしょうか。食と農のソーシャルイノベーションは、生物、社会、そして地球を未来へと繋ぐことです。受講生たちが農村の課題を見出し、新たな仕組みを創出していくことを期待しています」(大石教授)
※注釈
※1 スロー・フード
1986年にイタリアのカルロ・ペトリーニが提唱した食文化運動。「おいしい・きれい・公正(Good, Clean, Fair)」を理念に、地域の食文化や生物多様性を守ることをめざす。
https://www.slowfood.com/※2 プラネタリーバウンダリー
2009年にスウェーデンの環境科学者ヨハン・ロックストローム博士(ストックホルム・レジリエンス・センター)らが提唱した環境科学の概念。人類が地球上で持続的に生存するために越えてはならない「9つの環境指標の限界値」を定義。
https://www.stockholmresilience.org/research/planetary-boundaries.html※3 6次産業化
農林漁業=1次産業、加工=2次産業、販売・サービス=3次産業を組み合わせ、地域資源を活用した新たな付加価値を高める農林水産省が推進する取り組み。「1×2×3=6」に由来する。
https://www.maff.go.jp/j/nousin/inobe/6jika/index.html※4 地域おこし協力隊
2009年度に創設され、総務省が所管。都市部から地方へ移住した人材が、地域活性化や農林水産業、観光振興などに取り組む制度。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/02gyosei08_03000066.html※5 半農半X
京都府綾部市出身の塩見直紀氏が提唱。最低限の食を自ら育てる農業と、仕事をはじめ自分の使命や生きがいとなる何か「X」を両立するライフスタイル。
https://www.city.ayabe.lg.jp/0000000843.html※6 アニマルウェルフェア(動物福祉)
動物を「感受性を持つ生き物」として捉え、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスを最小限に抑え、本来の行動欲求を満たした健康的な生活ができる飼育環境を目指す考え方。世界動物保健機関が国際基準を示している。
https://awfc.jp/about/about-awfc/