授業紹介
地域リーダーシップ研究
〜地域主体形成の動的構造とリーダーシップ〜
地域社会を、そこで暮らし、生活する人々にとって豊かなものにするには、地域社会の資源を見極める、価値へと高めることが必要となる。それを実践するうえで、特に重要なのはシナリオづくりやプロジェクト、さらにプロジェクトを具体化するための組織づくりである。その組織に欠かせないのが指揮をとるリーダーの存在だ。本講義においては、上記のような地域の豊かさを顕在化させるシナリオを描き、プロジェクトをつくり、その実践組織を体系化した自治体やNPO、社会的企業のリーダー(組織的なトップである首長に限定しない)をゲスト講師として招聘し、講演とディスカッションを実施。さらに地域主体形成を実践する地域でフィールドワークを行うなど、リアルな事例を通じて地域社会を豊かにさせるための方法論を考える。
今年度は8月1日(土)、8月2日(日)の2日間での集中講義を実施 (オンラインでの事前のオリエンテーション、事後の成果発表を開催)。8月1日には2名のゲスト講師による講義、そして8月2日には大学から日帰りで行ける奈良県今井町へ赴き、現地を視察しながら、その地域がいかにまちの資源を見極め、それを価値へと高めるためのシナリオ、プロジェクトをどのようにつくり、さらに組織としてどう実践していったかを学んだ。
今回は1日目の講義について紹介する。
ゲストによる講演
京都市総合企画局都市経営戦略室戦略マネジメント課長
葉山和則氏
●プロフィール
2003年に京都市役所に入庁。市政広報を8年間担当し、「きょうと市民しんぶん」や広報動画の制作・改革に携わる。その後、京都市美術館のリニューアル、公民連携による公園マネジメントモデルの構築などを担当。現在は京都市総合企画局都市経営戦略室戦略マネジメント課長として、長期ビジョン「京都基本構想」の具現化や経営戦略を推進。多様な人や組織をつなぎ、「響創」による社会課題の解決と新たな価値の創出に取り組んでいる。この取り組みについて講義が行われた。
〈講演タイトル〉
京都基本構想から考える公園的空間の未来
京都基本構想とは
京都市は2050年までの京都のまちの羅針盤となる「京都基本構想」を2025年12月に策定。この基本構想には、これまで京都で大切に育まれ、伝え遺してきた3つの価値(「歴史と文化の積み重ね」、「自然との共生」、「人とのつながり」)を、 京都に関わる人々と共有することで、人柄ならぬ、京都の「まち柄」を未来に受け継いでいきたいという思いが込められている。
京都が大切していきたい3つの価値
※→以降は葉山氏の解釈
- 歴史と文化を介して人間性を恢復できるまち → 人文知の獲得
- 自然への畏敬と感謝の念を抱けるまち → 自然資本の享受
- 自他の生をともに肯定し尊重し合えるまち → 社会関係資本の享受
京都基本構想の理念を共有する施策
■「千年千人プロジェクト」
3つの価値の“気づき”の機会をつくる取組として、策定に関わった京都市未来共創チーム会議委員が「呼びかけ人」となり始動。次の千年に向け、京都の遺すべきまち柄をひとりひとりが語り紡いでいく。基本構想が描く「こういうまちであり続けたい」という京都の“まちの姿”を、京都に関わるひとりひとりの視点から捉え直し、共に響き合い、創り上げるという思いから「響創」することで京都の理想を千年先の未来へとつないでいくことが目的。
市職員の発案で小冊子「旅する基本構想 京都からあなたへ」を作成し、人の手を介して配布。様々な人の感想が書き足される形で全国に出回っている。また、目指すまちの姿の具体像として、「京都学藝衆構想」が挙げられた。
「京都学藝衆構想」とは
肩書きや資格で線引きせず、研究者、芸術家、職人、まちの匠、語り部、祭やスポーツの担い手、喫茶店や銭湯といった街の身近な文化を支える多様な人々と地域住民と共に学び合う場を創出していくもの。京都の文化や産業の次世代への継承、新たな魅力発信、世代を超えた交流やコミュニティ活性化を目指す。
前半終了後は京都のまちで受講生自身はどうありたいのか、自分なりの問いを持ち、グループに分かれてディスカッション。
質疑応答の後、後半は「基本構想」で示す価値の具体例として、葉山氏が携わった公園利活用の事例について講義。
公園的空間の未来とは
公園づくりはまちづくりの入り口
都市公園法に基づく都市公園だけでなく、パブリックスペースなどの空間も「公園的」と捉え、活かしていく。
未来につながる公園的空間のつくりかた
- 計画をつくらない → 社会実験から小さくはじめる
- ハードからつくらない → ソフト的な取り組みを通じ、仲間を集める
- 「ぬか床」型コミュニティの形成 → 多様な主体が混ざり合うことで革新性をもたらす
具体例
《新京極公園》
地域・民間企業と京都市とが一緒に柔軟な公園の使い方を考え試行する「公民連携 公園利活用トライアル事業」の枠組みで、地域連携イベント等を実施。
令和6年8月にPark-UP事業の提案主体として新京極公園愛護協力会が認定され、錦天満宮の春季・秋季大祭と連携した「錦の天神さんまつり」など、地域と連携した公園活用が継続的に展開されている。
《北鍵屋公園》
公園内のコンビニの店舗収益の一部を活用し、地域のコミュニティスペースの整備・運営を支援する、全国初のモデル。企業の力を地域の公園を支える人たちに還元させる京都市の「Park-UP事業」の第1号。現在は地域住民で構成された「北鍵屋公園運営委員会」が管理運営。
公園の老朽化や担い手不足といった課題解決と、地域コミュニティの活性化の拠点となっている。
《宝が池公園》
地域の自治組織、市民団体、周辺企業、行政などが参画する「宝が池みらい共創会議」を設立。公園の将来像を共有し、公民連携のもと、生物多様性の保全やそのための関係人口創出に向けたさまざまな取組を実践している。
その一環として、民間企業の投資による木育・交流拠点の整備などを推進。また、公園の樹木や街路樹など「街の木」を暮らしに活かす「都市林業」の実験も進められている。
●3例共に発案段階から市と民間企業、地域住民がプロセスを共有。対話を重ねる。
●シナリオ・プロジェクトづくりにあたってはインストゥルメンタルではなく、コンサマトリーを重視
※インストゥルメンタル(手段的):課題を解決するための場。コンサマトリー(自己充足的):明確な成果や結論を急がず、人との交流や偶然生まれるつながり、その場に参加する楽しさを大切にする場
「分断をなくす。共に在ることができる。つくる。つながる。受け継ぐ。恵みをいただく。これらを体感できる公園的空間が増えることが京都学藝衆構想につながり、ひいては基本構想の理想の具現化につながると考えます。公園的空間に立ち上がった営みを通じてうっかり居合わせ、異なる価値観に出会い、刺激を受け、『何のために生まれて、何をして生きるのか』を自ら問い続けることで、世界の見え方が変わるはずです」と葉山氏は講義を締めくくり、受講生からの公園的空間の可能性についての質問に答えた。
●プロフィール
1974年東京都大田区生まれ。日本大学文理学部で環境社会学を学び卒業。国際NGOを経て、2003年より国際政策シンクタンク「トランスナショナル研究所」研究員として、20年にわたり、オランダ・ベルギーで公共サービスのあり方を研究。2022年に、杉並区初の女性区長に就任した後は、学校給食費の無償化や非正規公務員の待遇改善などに取り組み、2026年6月に再選し2期目へ。著書に「杉並は止まらない」(地平社)「地域主権という希望」などがある。
当日は、「対話から始まる、みんなの杉並」を掲げ、気候区民会議や区民参加型予算など、住民の声を政策に生かす区政を推進していることについて、講義を行った。
〈講演タイトル〉
自治体政策と市民自治‒「対話の区政」が生み出す新しい民主主義
キーワード
①政策 ②市民自治 ③新しい民主主義
第1部 私たちはどんな時代を生きているのか。
政治への不信や格差、孤独や孤立が大きな社会問題としてあり、その中でこどもや若者達は、いじめや不登校、コロナ禍、戦争の日常化など私たち大人が経験したことのない、大変難しい社会を生きている。社会では同一的な人たちが決定権を持っており、若者や女性、マイノリティは排除されがちである。
これらの人達が声をあげる必要があり、そのためにも地方政治には多様性が必要である。
第2部 自治体は民主主義をアップデートできる
地域課題、社会課題、特に孤立や経済格差は政治の失敗の中で起きており、これを変えていかなければならないが、国政、国際政治は遠いところにある。自分達が生きている場所で何ができるかを考えること、生活と政治を近づけていくこと、自治体からアップデートしていくことが必要だ。
地域課題は、行政だけ、専門家だけ、市民だけでは解決できないため、三者が得意な力、もてる力をいかしていく必要がある。これを市民自治と呼びたい。
民主主義は投票だけではなく、日々、地域の課題について考え対話し、ともに決定し、その結果に責任をもつ営みである。自治体はその民主主義が日々実践される場所である。
この4年間、対話の区政を、市民が主体で行政がそれを支える政策形成プロセスであると位置づけ、自治基本条例を制度的な基盤とし、漸進的に自治を深化させてきた。
杉並区では、区民からテーマに合わせて案を公募し、区民投票で予算を決定する区民参加型予算を実施している。2023年のテーマは「森林環境保護」、2024年のテーマは「防災・減災」、2025年のテーマ「健康・ウエルネス」である。30代、40代の若い世代の参加が多いことが特徴である。
第3部 対話の区政とはなにか
対話の区政には4つのステップがある。第一に、情報の公開や共有。区の情報は区民のものであり、住民との情報共有が、対話の区政の基盤である。このような基盤をつくりながら、二番目として、安心して意見を言える対話・熟議の場をつくっていく、提供していくことが重要である。異なる意見をもつ多様な住民が参加し、対面でもオンラインでも安心して意見を言える、議論できる場をつくることが重要だ。無作為抽出はそのための重要な手法である。たとえば、気候区民会議ではこの手法で、77人の人が参加した。
三番目が、みんなで作る納得解である。意見や立場の違いを理解し合い、区民・職員・専門家などが協力して合意形成を進める。たとえば、杉並区では、公共施設のあり方、都市計画やインフラ、治水のことなどについて合意形成を進めてきた。
さらに四番目が、実行し、検証し、改善する好循環をつくっていくことである。小さな社会実験を積み重ね、これを検証していく。これらが循環するなかで、行政はよりよい政策をつくることができる。これは、民主主義の循環モデル、PDCAモデルである。
主な対話の実績と成果としてまちの将来像を区民と共に話し合う「デザイン会議」、くじ引きで選ばれた区民が気候変動対策を提案する「気候区民会議」、小学5年〜高校生とともに作る「子どもの権利条約」、住民とつくる「公共施設の未来」など、44事業を438回の区民との対話によって成し遂げた。
第4部 情報公開から始まる民主主義/民主主義は役所の中から始まる
情報を持つ、多くの情報を持っているのは行政であることが多い。従って、その非対称性を解消するためには、市民と行政ができるだけ同じ情報を共有して、なぜその政策を考えているのか、どのような課題があるのかを理解した上で話し合う場を作らなければいけない。そのような意味で情報公開は非常に重要であり、対話の区政の基本となるものである。このような立場を明確にした上で、区長の仕事を徹底的に透明化している。
また、「民主主義は役所の中から始まる」ため、杉並区では、区民と職員が一緒に地域課題の研究をする職員の研修などを行っている。このような中で、職員も、やりがいをもって、区民と一緒に働く醍醐味を実感しつつあるといえる。
第5部 対話は「より良く決める」ためにある
「対話」は時間ばかりかかるという批判があるが、実は、対話は「よりより良く決める」ためにある。対話は決定していくためにこそ必要である。しかし実際には様々な利害対立があり、特に、開発問題などに関してはいろいろな立場が交錯し、価値観も様々である。このような中での調整は、利害調整ということも含めて大変難しい。その具体例として東京都都市計画道路の整備方針に関する区長メッセージ(公式の公開ビデオ)をみてもらうが、これにより、区民にきちんと説明をすること、対話が重要であることがわかってもらえるはずである。
第6部 未来のまちづくりは市民と想像する
第6部は、都市の大胆な未来像に関わるパラダイムシフトと市民自治の重要性に関してである。第6部では「公共空間」の再定義に関わる二つの記事(命を守るインフラに関する記事と、ソウルの野外図書館の記事)を紹介する。これらは、21世紀後半の公共事業体が、20世紀とは全く異なるインフラを整備することになるであろうことを示唆する記事である。都市はもっと幸せを作れる、もっと健康を作れる、もっと居場所を作れるのではないか。しかし、このようなパラダイムシフトには市民自治的な視点が必要である。「今の社会に必要な大胆なパラダイムシフトは、構想しない限りは絶対に実現には近づきません。ただ行政だけでは絶対にこのような未来は描けないし、限界がある。市民やいろいろな専門性を持つ、発想を持つ人たちと一緒に構想していくということが重要なのではないしょうか」と岸本氏は講義を締めくくった。
さらに岸本氏の講義を踏まえて、受講生との対話がスタート。これからの世代のための施策に着手しようと思ったきっかけやどのように職員たちを説得して取り組みを始めているか、学校の中の民主主義について岸本氏が語り、受講生からの「対話に参加できない人、対話として声を上げにくい人たちの意見をどのように政策に取り込む工夫」や「自分が関わっている水道事業の再公営化」についての質問に答えた。
2日目のフィールドワークのレポートは後編で紹介。
授業紹介
地域リーダーシップ研究
〜地域主体形成の動的構造とリーダーシップ〜
地域社会を、そこで暮らし、生活する人々にとって豊かなものにするには、地域社会の資源を見極める、価値へと高めることが必要となる。それを実践するうえで、特に重要なのはシナリオづくりやプロジェクト、さらにプロジェクトを具体化するための組織づくりである。その組織に欠かせないのが指揮をとるリーダーの存在だ。本講義においては、上記のような地域の豊かさを顕在化させるシナリオを描き、プロジェクトをつくり、その実践組織を体系化した自治体やNPO、社会的企業のリーダー(組織的なトップである首長に限定しない)をゲスト講師として招聘し、講演とディスカッションを実施。さらに地域主体形成を実践する地域でフィールドワークを行うなど、リアルな事例を通じて地域社会を豊かにさせるための方法論を考える。
今年度は8月1日(土)、8月2日(日)の2日間での集中講義を実施 (オンラインでの事前のオリエンテーション、事後の成果発表を開催)。8月1日には2名のゲスト講師による講義、そして8月2日には大学から日帰りで行ける奈良県今井町へ赴き、現地を視察しながら、その地域がいかにまちの資源を見極め、それを価値へと高めるためのシナリオ、プロジェクトをどのようにつくり、さらに組織としてどう実践していったかを学んだ。
今回は1日目の講義について紹介する。
ゲストによる講演
京都市総合企画局都市経営戦略室戦略マネジメント課長
葉山和則氏
●プロフィール
2003年に京都市役所に入庁。市政広報を8年間担当し、「きょうと市民しんぶん」や広報動画の制作・改革に携わる。その後、京都市美術館のリニューアル、公民連携による公園マネジメントモデルの構築などを担当。現在は京都市総合企画局都市経営戦略室戦略マネジメント課長として、長期ビジョン「京都基本構想」の具現化や経営戦略を推進。多様な人や組織をつなぎ、「響創」による社会課題の解決と新たな価値の創出に取り組んでいる。この取り組みについて講義が行われた。
〈講演タイトル〉
京都基本構想から考える公園的空間の未来
京都基本構想とは
京都市は2050年までの京都のまちの羅針盤となる「京都基本構想」を2025年12月に策定。この基本構想には、これまで京都で大切に育まれ、伝え遺してきた3つの価値(「歴史と文化の積み重ね」、「自然との共生」、「人とのつながり」)を、 京都に関わる人々と共有することで、人柄ならぬ、京都の「まち柄」を未来に受け継いでいきたいという思いが込められている。
京都が大切していきたい3つの価値
※→以降は葉山氏の解釈
京都基本構想の理念を共有する施策
■「千年千人プロジェクト」
3つの価値の“気づき”の機会をつくる取組として、策定に関わった京都市未来共創チーム会議委員が「呼びかけ人」となり始動。次の千年に向け、京都の遺すべきまち柄をひとりひとりが語り紡いでいく。基本構想が描く「こういうまちであり続けたい」という京都の“まちの姿”を、京都に関わるひとりひとりの視点から捉え直し、共に響き合い、創り上げるという思いから「響創」することで京都の理想を千年先の未来へとつないでいくことが目的。
市職員の発案で小冊子「旅する基本構想 京都からあなたへ」を作成し、人の手を介して配布。様々な人の感想が書き足される形で全国に出回っている。また、目指すまちの姿の具体像として、「京都学藝衆構想」が挙げられた。
「京都学藝衆構想」とは
肩書きや資格で線引きせず、研究者、芸術家、職人、まちの匠、語り部、祭やスポーツの担い手、喫茶店や銭湯といった街の身近な文化を支える多様な人々と地域住民と共に学び合う場を創出していくもの。京都の文化や産業の次世代への継承、新たな魅力発信、世代を超えた交流やコミュニティ活性化を目指す。
前半終了後は京都のまちで受講生自身はどうありたいのか、自分なりの問いを持ち、グループに分かれてディスカッション。
質疑応答の後、後半は「基本構想」で示す価値の具体例として、葉山氏が携わった公園利活用の事例について講義。
公園的空間の未来とは
公園づくりはまちづくりの入り口
都市公園法に基づく都市公園だけでなく、パブリックスペースなどの空間も「公園的」と捉え、活かしていく。
未来につながる公園的空間のつくりかた
具体例
《新京極公園》
地域・民間企業と京都市とが一緒に柔軟な公園の使い方を考え試行する「公民連携 公園利活用トライアル事業」の枠組みで、地域連携イベント等を実施。
令和6年8月にPark-UP事業の提案主体として新京極公園愛護協力会が認定され、錦天満宮の春季・秋季大祭と連携した「錦の天神さんまつり」など、地域と連携した公園活用が継続的に展開されている。
《北鍵屋公園》
公園内のコンビニの店舗収益の一部を活用し、地域のコミュニティスペースの整備・運営を支援する、全国初のモデル。企業の力を地域の公園を支える人たちに還元させる京都市の「Park-UP事業」の第1号。現在は地域住民で構成された「北鍵屋公園運営委員会」が管理運営。
公園の老朽化や担い手不足といった課題解決と、地域コミュニティの活性化の拠点となっている。
《宝が池公園》
地域の自治組織、市民団体、周辺企業、行政などが参画する「宝が池みらい共創会議」を設立。公園の将来像を共有し、公民連携のもと、生物多様性の保全やそのための関係人口創出に向けたさまざまな取組を実践している。
その一環として、民間企業の投資による木育・交流拠点の整備などを推進。また、公園の樹木や街路樹など「街の木」を暮らしに活かす「都市林業」の実験も進められている。
●3例共に発案段階から市と民間企業、地域住民がプロセスを共有。対話を重ねる。
●シナリオ・プロジェクトづくりにあたってはインストゥルメンタルではなく、コンサマトリーを重視
※インストゥルメンタル(手段的):課題を解決するための場。コンサマトリー(自己充足的):明確な成果や結論を急がず、人との交流や偶然生まれるつながり、その場に参加する楽しさを大切にする場
「分断をなくす。共に在ることができる。つくる。つながる。受け継ぐ。恵みをいただく。これらを体感できる公園的空間が増えることが京都学藝衆構想につながり、ひいては基本構想の理想の具現化につながると考えます。公園的空間に立ち上がった営みを通じてうっかり居合わせ、異なる価値観に出会い、刺激を受け、『何のために生まれて、何をして生きるのか』を自ら問い続けることで、世界の見え方が変わるはずです」と葉山氏は講義を締めくくり、受講生からの公園的空間の可能性についての質問に答えた。
東京都杉並区長 岸本聡子氏
●プロフィール
1974年東京都大田区生まれ。日本大学文理学部で環境社会学を学び卒業。国際NGOを経て、2003年より国際政策シンクタンク「トランスナショナル研究所」研究員として、20年にわたり、オランダ・ベルギーで公共サービスのあり方を研究。2022年に、杉並区初の女性区長に就任した後は、学校給食費の無償化や非正規公務員の待遇改善などに取り組み、2026年6月に再選し2期目へ。著書に「杉並は止まらない」(地平社)「地域主権という希望」などがある。
当日は、「対話から始まる、みんなの杉並」を掲げ、気候区民会議や区民参加型予算など、住民の声を政策に生かす区政を推進していることについて、講義を行った。
〈講演タイトル〉
自治体政策と市民自治‒「対話の区政」が生み出す新しい民主主義
キーワード
①政策 ②市民自治 ③新しい民主主義
第1部 私たちはどんな時代を生きているのか。
政治への不信や格差、孤独や孤立が大きな社会問題としてあり、その中でこどもや若者達は、いじめや不登校、コロナ禍、戦争の日常化など私たち大人が経験したことのない、大変難しい社会を生きている。社会では同一的な人たちが決定権を持っており、若者や女性、マイノリティは排除されがちである。
これらの人達が声をあげる必要があり、そのためにも地方政治には多様性が必要である。
第2部 自治体は民主主義をアップデートできる
地域課題、社会課題、特に孤立や経済格差は政治の失敗の中で起きており、これを変えていかなければならないが、国政、国際政治は遠いところにある。自分達が生きている場所で何ができるかを考えること、生活と政治を近づけていくこと、自治体からアップデートしていくことが必要だ。
地域課題は、行政だけ、専門家だけ、市民だけでは解決できないため、三者が得意な力、もてる力をいかしていく必要がある。これを市民自治と呼びたい。
民主主義は投票だけではなく、日々、地域の課題について考え対話し、ともに決定し、その結果に責任をもつ営みである。自治体はその民主主義が日々実践される場所である。
この4年間、対話の区政を、市民が主体で行政がそれを支える政策形成プロセスであると位置づけ、自治基本条例を制度的な基盤とし、漸進的に自治を深化させてきた。
杉並区では、区民からテーマに合わせて案を公募し、区民投票で予算を決定する区民参加型予算を実施している。2023年のテーマは「森林環境保護」、2024年のテーマは「防災・減災」、2025年のテーマ「健康・ウエルネス」である。30代、40代の若い世代の参加が多いことが特徴である。
第3部 対話の区政とはなにか
対話の区政には4つのステップがある。第一に、情報の公開や共有。区の情報は区民のものであり、住民との情報共有が、対話の区政の基盤である。このような基盤をつくりながら、二番目として、安心して意見を言える対話・熟議の場をつくっていく、提供していくことが重要である。異なる意見をもつ多様な住民が参加し、対面でもオンラインでも安心して意見を言える、議論できる場をつくることが重要だ。無作為抽出はそのための重要な手法である。たとえば、気候区民会議ではこの手法で、77人の人が参加した。
三番目が、みんなで作る納得解である。意見や立場の違いを理解し合い、区民・職員・専門家などが協力して合意形成を進める。たとえば、杉並区では、公共施設のあり方、都市計画やインフラ、治水のことなどについて合意形成を進めてきた。
さらに四番目が、実行し、検証し、改善する好循環をつくっていくことである。小さな社会実験を積み重ね、これを検証していく。これらが循環するなかで、行政はよりよい政策をつくることができる。これは、民主主義の循環モデル、PDCAモデルである。
主な対話の実績と成果としてまちの将来像を区民と共に話し合う「デザイン会議」、くじ引きで選ばれた区民が気候変動対策を提案する「気候区民会議」、小学5年〜高校生とともに作る「子どもの権利条約」、住民とつくる「公共施設の未来」など、44事業を438回の区民との対話によって成し遂げた。
第4部 情報公開から始まる民主主義/民主主義は役所の中から始まる
情報を持つ、多くの情報を持っているのは行政であることが多い。従って、その非対称性を解消するためには、市民と行政ができるだけ同じ情報を共有して、なぜその政策を考えているのか、どのような課題があるのかを理解した上で話し合う場を作らなければいけない。そのような意味で情報公開は非常に重要であり、対話の区政の基本となるものである。このような立場を明確にした上で、区長の仕事を徹底的に透明化している。
また、「民主主義は役所の中から始まる」ため、杉並区では、区民と職員が一緒に地域課題の研究をする職員の研修などを行っている。このような中で、職員も、やりがいをもって、区民と一緒に働く醍醐味を実感しつつあるといえる。
第5部 対話は「より良く決める」ためにある
「対話」は時間ばかりかかるという批判があるが、実は、対話は「よりより良く決める」ためにある。対話は決定していくためにこそ必要である。しかし実際には様々な利害対立があり、特に、開発問題などに関してはいろいろな立場が交錯し、価値観も様々である。このような中での調整は、利害調整ということも含めて大変難しい。その具体例として東京都都市計画道路の整備方針に関する区長メッセージ(公式の公開ビデオ)をみてもらうが、これにより、区民にきちんと説明をすること、対話が重要であることがわかってもらえるはずである。
第6部 未来のまちづくりは市民と想像する
第6部は、都市の大胆な未来像に関わるパラダイムシフトと市民自治の重要性に関してである。第6部では「公共空間」の再定義に関わる二つの記事(命を守るインフラに関する記事と、ソウルの野外図書館の記事)を紹介する。これらは、21世紀後半の公共事業体が、20世紀とは全く異なるインフラを整備することになるであろうことを示唆する記事である。都市はもっと幸せを作れる、もっと健康を作れる、もっと居場所を作れるのではないか。しかし、このようなパラダイムシフトには市民自治的な視点が必要である。「今の社会に必要な大胆なパラダイムシフトは、構想しない限りは絶対に実現には近づきません。ただ行政だけでは絶対にこのような未来は描けないし、限界がある。市民やいろいろな専門性を持つ、発想を持つ人たちと一緒に構想していくということが重要なのではないしょうか」と岸本氏は講義を締めくくった。
さらに岸本氏の講義を踏まえて、受講生との対話がスタート。これからの世代のための施策に着手しようと思ったきっかけやどのように職員たちを説得して取り組みを始めているか、学校の中の民主主義について岸本氏が語り、受講生からの「対話に参加できない人、対話として声を上げにくい人たちの意見をどのように政策に取り込む工夫」や「自分が関わっている水道事業の再公営化」についての質問に答えた。
2日目のフィールドワークのレポートは後編で紹介。