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Training Program for
Social Innovation Designer

大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム

キックオフセミナー 登壇者座談会 【前編】

[ 2024.12.17 更新 ]

現場を知り尽くした起業家が考えるソーシャル・イノベーションと大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログ ラムにかける龍谷大学の覚悟とは

(出席者)
株式会社とくし丸 取締役 住友 達也氏
株式会社ソルファコミュニティ 代表取締役 玉城 卓氏
たんたんエナジー株式会社 代表取締役社長 木原 浩貴氏
京都信用金庫 専務理事 丹波 寛志氏
龍谷大学 深尾 昌峰 副学長(政策学部 教授)

-まず「ソーシャル・イノベーション」について。いろいろな見方があると思うのですが、皆さんはどう捉えておられますか。

深尾:ソーシャルイノベーターは、例えるなら「地球防衛軍」ではなく「反逆軍」のほうかなと思っています。社会に対して手をかえ品をかえしながら、戦い方を考えていく。例えるならアニメの「ヤッターマン」に出てくるドロンジョ一味ですね。最近は現状を捉えるとか批判的に物事を見るということ自体、世の中の空気としてやりにくい。でもそれができないと、いい社会なんか作れるわけがないんです。社会を守るとか温存するという発想ではなく、問題に気づいて、そして社会を変える。これはものすごく難しいし、戦いだし、エネルギーもいるし、人も巻き込まなければいけないし、資金もいるし、1人ではできない。ドロンジョ一味のように、戦い方や今週のメカを考えて、戦いに負けて「おしおき」を受けても来週また戦いにくるみたいな、そういうことの連続になるのではと思います。

住友:おっしゃる通り、イノベーションは、今までの常識を覆すということですよね。だから僕は社会の枠組みから外れた人が起こすイメージを持っています。本田宗一郎さんは講演を聞きに来ていた人たちに「こんなところに来る人は、全然何もできない、こんなところに来る時間があるなら現場に行け」とおっしゃったらしいのですが、本当その通りだなと思います。勉強とは走り込みのようなもので、事業を起こすための基礎体力づくりとしてはとても重要です。でも一番大切なのは何か自分で突破口を見つけられることなんですよね。知識や情報は調べれば手に入るし、聞けばわかりますが、それをどう組み立てて、人の心を震えさせたり、感動させたりできるか。勉強ばっかりしていると、その感覚がわからないので、ピント外れなことをしてしまう。

玉城:僕は自分がやっていることをソーシャル・イノベーションだと意識はしたことがないのですが、今回、こういう機会をいただいたので、ソーシャル・イノベーションとはどういうことなのか、調べてみたんです。そうしたら「地域」なんだなと。地域のいろんなものを、のりみたいにペタペタくっつけていく。先ほどのパネルティスカッションで「バランスの良さが大切」と言ったんですが、世の中に関係しないものなんてひとつもない。全部が全部何かしら関係しているんです。課題を解決しようという動きがあるなら、いろんなものを組み合わせることで、新しいものが生まれてくるのかなと思いました。

木原:私も自分自身イノベーターではなく、典型的なNo.2タイプあるいは別動隊の隊長タイプだと思っていますが、ソーシャル・イノベーションって何か変えたい、ほっとけないって思う人たちが、居ても立ってもいられずやっているイメージなんです。ソーシャル・イノベーションをやります、で、何を変えます?では順番が逆だろうなと。ただ変えたいという思いや個人の動きだけでは社会は変わらないんですよね。社会の大きな問題と地域の問題の間にある制度や仕組みを変えようと現場で走り回っている人たちの取り組みを、ちゃんと制度や仕組みに変えることに繋げる。これらも含めてソーシャル・イノベーションなんだと考えています。

丹波:住友さんがおっしゃるように、型にはまったところからは何も生まれないと私も思っています。私たちは木原さんがおっしゃる社会課題を何とかしようと走り回っている人たちをサポートしようと社を挙げて取り組んでいるのですが、職員には「コミュニティマネージャー」になってほしいと考えています。自分では起こせないかもしれないけれど、人を繋げたり、地域を繋げたり、事業を繋げたりして、新しいものを一緒に生み出していく。価値観の違う人が多様性を認め合って集まる場をつくり一緒になって問題を解決していく。今は実戦でどんどんやっていこうとしているところです。

現場を知り尽くした起業家が考えるソーシャル・イノベーションと大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログ ラムにかける龍谷大学の覚悟とは

深尾:ソーシャル・イノベーションは、キラキラした綺麗な世界で起こっている話だけじゃなくて弱い人や理不尽なことを直視できないとはじまらない。私たちの暮らしの周りにある、まだ顕在化していない「問題」に気づくことが大切なんです。そのために地域の中でダイナミックに起こってきたことや今起こっていることにフォーカスを当てられるかが大事な視点になります。私としてはこれから学ぶ皆さんとソーシャル・イノベーションということを語りたいし、一緒になって悩みたいと思っています。

-起業家の方はこれからどのようなことに取り組んで行きたいと考えておられますか?

木原:私は、会社を大きくしようと思ってないんですよ。でも同じように考えてくれる人たちが周りにできるといいなとは思っています。まず地域で面白いねって思われるようなことをやって、それいいねって言ってくれる全国の人たちにとノウハウを共有していきたい。

玉城:私の最終的な目標は、いろんな人の「幸せ」をつくることなんです。だからまずバニラビーンズの栽培に成功して、雇用を増やしていきたいと考えています。今の社会は、障がいにあたらないボーダーの人や発達に何かを抱える人たちは、普通に就職するというレールにも乗れないし、福祉のレールにも乗れない。そこをすくい上げて行きたいと思っています。バニラビーンズ作りに学歴は関係ないですから。最近、知的障がいのある高齢受刑者の出所後の受け入れについて刑務所に呼ばれることが多くなりました。データによると再犯率が2割近いそうなんですが、これは仕事がないというのも原因のひとつなのかな、と。仕事って「居場所」なんですよ。日雇いなんかだと金の切れ目が縁の切れ目という感じで不安定ですけれど、バニラビーンズ作りを通してずっと安定して給料がもらえる仕事っていうのを提供できたら、居場所になるのかなと思っています。

現場を知り尽くした起業家が考えるソーシャル・イノベーションと大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログ ラムにかける龍谷大学の覚悟とは

深尾:私は最近、刑務所によく行きます。この人たちと何かできないかなという視点で受刑者の方たちと対話しているんですけど、話をすればするほど、刑務所に入ることになったのはこの人たちのせいじゃないなと感じるんです。やはり家庭環境は大きい。でも複雑な家庭環境でも道をそれずに生きている人ばかりなのだから、結局はその人の問題だと自己責任論を唱える人がほとんどです。だからこそこれを社会問題として捉える「眼差し」みたいなものが必要なのかなと。誰だって一歩間違えたら犯罪者になっていたかもしれない。彼らと塀の外にいる僕らってなんか紙一重感があるんですよ。「自分だけが勝ち組」という自己中心的ではない事象の捉え方が問題を解決する入り口になるのではないかと思います。

住友:知り合いが、ホームレスの人を雨風や寒さがしのげるセンターに連れて行こうとするけど、行きたがらない。なぜなら、タバコは吸えない、お酒は飲めない、そんな窮屈な思いをするためにホームレスになったのではないと。そういう価値観もあるわけで、これを「負け組」って言う人もいるんでしょうけれど、僕は違うと思います。しがらみにとらわれて疲弊するなら、ホームレスで好きにやっているほうが幸せかも知れないって本当に思います。

深尾:確かに、ホームレスの人と話すと全く負け組感がない人たちがたくさんいて、「俺は人生を選んでいるんだ」って言い切られるんです。アメリカのある州なんですが、ホームレスの人たちが本当に陽気なんですよ。そしてみんなが彼らを許容しながら、認め合っている。そういう姿を見ると何が豊かなのかなと考えさせられます。社会の構造とかあり方とか、僕らが本当に豊かだとか信じてきたこの近代みたいなものを「疑う眼差し」って本当に大事だなと思いますよ。

-ものの見方によって社会課題は変わるということですね。自分たちが気づいた社会課題について、どう向き合うべきだとお考えですか?

玉城:以前、子ども食堂に野菜を持って行ったことがあったんですよ。そうしたら地区の小学生の半数が生活保護家庭でした。多いとは思っていたけれど半数とは思わなかったのでショックを受けましたね。親に仕事が無いとか離婚率が高いとか、地元の問題が悪い方向へ悪い方へと繋がっていく。それがずっと続いている。この負のスパイラルをどう断ち切れば流れが変わるのかを考える必要があると思っています。先ほど先生もおっしゃっていましたけど、まだ見えていない課題もあるはずなので、それをどうするか。

木原:上げれば切りがないですよね。住友さんはこれまでいろんな社会問題を見てこられたと先ほど伺いましたが。

住友:見すぎてこれ以上知りたくない。知ってしまうと知らないふりができないんですよ。でも時間は限りがありますから、ひとつに集中すると他のことできなくなってしまう。そうなると今まで気にかけていたことを忘れていた自分を責めるんですよ。沖縄の辺野古のことをしばらく考えてなかったな、とか。質を高めると量ができない。僕は編集者という仕事柄、浅く広くになってしまうので、深く入っていけるスペシャリストの方は本当に尊敬します。

現場を知り尽くした起業家が考えるソーシャル・イノベーションと大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログ ラムにかける龍谷大学の覚悟とは

深尾:今のおっしゃったことは非常に大事で、忘れて申し訳ないという気持ちを持ちながら、編集という形で社会の問題を見えるものにする人も必要です。僕ら大学としての役割は、知っちゃったり、気づいちゃったりするアンテナが高い人、感受性が高い人たちが門を叩ける、孤独にしない場を提供すること。そういう意味では京信さんも地域の課題に対してこういう役割を果たしていますよね。

丹波:そうですね。組織として振り切って、まちづくりや地域課題の解決をお手伝いする店舗を開設しましたし、私たちが運営している河原町御池の共創施設「QUESTION」では課題に対して様々な分野の人が集まり、みんなで答えを探しにいく取り組みを進めています。

深尾:そういうところと協働して、社会課題を解決できると面白いですよね。

住友:例えばなんですけど、先ほどの受刑者や再犯率の文脈で、特殊詐欺を考えている人に、フランチャイズでビジネスモデルを提供し、ノウハウを教えるとか。ものすごく能力を発揮するんじゃないかな。

深尾:ドメインをちょっとずらせばという話ですよね。僕はそういう取り組みがソーシャル・イノベーションの一つのパターンになるのではないかと思っています。利他、誰かが喜ぶ実感やソーシャルインパクトがあるとか、つまり、社会の役に立つという「回路」を繋いであげる。その人は自分の能力がいい方向で役立つというのを知らないだけなんですよ。ちゃんと教えてあげれば、木原さんの会社にものすごい資金を集めてくるファンドレイザーになる可能性もありますよ。

木原:それはありがたいですね。

深尾:私はこのようなソーシャル・イノベーションを大事にしたい。上辺の世界だけではなく、課題の本質に向き合いながら、何ができるのかと、もがき考え抜くというのは大学という存在は向いているような気がするんですよね。ソーシャル・イノベーションや社会のあり方に向き合うにあたって仏教の教えを理念とする龍谷大学にしかできないことがあるだろうと思っています。その強みをきちんと生かせるかどうか、勝負ですね。