3大学がワンチームで実社会の課題解決に挑むプログラムの重点演習
2025年7月5日(土)、琉球大学附属図書館 ラーニング・コモンズにて、「ソーシャル・イノベーション実践演習」中間発表会が開催されました。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」は、大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラムの核となるキャップストーン科目です。ソーシャルイノベーションデザイナー資格取得にも必要な「総仕上げの、総合的な経験をする実践的なプログラム」として、3つの大学院の受講生が共に取り組み、ソーシャル・イノベーションについて講義で学び、積み上げてきた理論を現実的な社会課題解決のためにどう実践していくのか地域課題の原因からポテンシャルを見抜き、そのポテンシャルと多様な領域の知見を融合させて、どう新たな価値を生むのか、が評価のポイントとなります。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」は、まず3大学の担当教員が連携先機関(自治体や企業、NPOなど)と地域の課題(環境問題、人口減少、産業衰退、貧困、地域間格差、共生社会問題、島嶼問題など)について協議し、受講生たちが取り組むテーマ案として、龍谷大学大学院は3つ、京都文教大学大学院は2つ、琉球大学大学院は2つの課題を提示。「ソーシャル・イノベーション実践演習」を受講する17名(龍谷大学大学院11名、京都文教大学大学院2名、琉球大学大学院4名)がどのテーマに取り組みたいかアンケートを行い、4つのテーマが決定。ランダムに編成されたチームごとに、テーマの社会的要因や解決につながるポテンシャルを探究していきます。
中間発表会は、ここまでの研究・調査結果をプレゼンテーションし、立案したソーシャル・イノベーションのアイデアを提案・実践するために12月に開催される最終発表会に向けてのステップとなるもの。当日は、受講生や教職員を含め47名が沖縄に集まり、13名がオンラインで参加しました。
開会にあたって、琉球大学大学院地域共創研究科 本村 真研究科長が「進捗状況の報告と担当教官をはじめとする多くの人の感想や意見によって、自分たちが取り組む課題がより明確となります。また、他のチームの発表を聞くことは今後の参考、刺激になるはずです」と挨拶。琉球大学地域連携推進機構 畑中 寛特命准教授による「ソーシャル・イノベーション実践演習」についての説明の後、4つのチームによるプレゼンテーションが行われました。
今回は、4つのチームが取り組む課題の内容と担当教官のコメント、さらにチームでのプロジェクトの進め方、中間発表を終えての手応えや最終発表会に向けての改善点などをメンバーの声を交えてお伝えします。(順番は中間発表会当日通り)
「醍醐の活性化―醍醐未来創生プロジェクト―」(醍醐チーム)
メンバー/SU JIA、馬玉成、北野嘉秀、大門祥一郎、森田博史(龍谷大学大学院)
〈テーマ概要〉
京都市伏見区にある醍醐地域の活性化をめざす。醍醐地域は1970年代以降のニュータウン開発により人口が大幅に増加。なかでも、地域内の大規模団地には多くの人が入居したものの、近年は減少傾向にある。醍醐地域のポテンシャルを見出し、今後のソーシャル・イノベーションのアイデアの創出に活かしていく。
〈研究・調査〉
人口減少の要因について、歴史的、社会的背景から細かく分析。高齢化や団地の老朽化に伴う転出などの要因だけでなく、地域へのネガティブなイメージといった醍醐地域特有の問題点を抽出。
〈課題解決に向けて〉
世界遺産である醍醐寺を有すといった観光・文化的価値の高さを訴求していくイメージアップ戦略、老朽化は進んでいるもののリーズナブルに入居できるため、京都市が進める「山科・醍醐活性化プロジェクト」との連携、以前あった東部クリーンセンターの広大な跡地の活用など、幅広いアイデアを創出・提案していく。
●担当教官コメント/龍谷大学政策学部 中森孝文政策学部長
社会的・歴史的背景をしっかりと押さえ、なぜ現在の状況になっているのかを見ていること、さらに醍醐地域と同様に大規模開発された京都市の洛西地域との比較を通じて、街づくりの違いを探っている点を評価します。両地域を訪れ、関係者にヒアリングするなど、メンバーが「汗をかいている」ことにも好感を持てましたね。一方、メンバー全員が龍谷大学大学院ということもあるのですが、3大学連携の利点を活かしてほしい。例えば、京都文教大学の先生に話を聞いて、入居者の心理を分析するといった多様な視点から要因に向き合うことも必要だと思います。
●醍醐チームメンバーコメント
フィールドワークにおいて社会課題を知り、考えること、そしてチームで取り組むことが、この大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラムで学ぶ醍醐味だと感じています。メンバーとは全員集まっての視察と議論だけでなく、何か情報を得たりすればLINEで報告するなど、ほぼ毎日のように連絡を取り合っています。
醍醐地域の活性化について、チーム内では案外早く答えが出せると思っていたのですが、知れば知るほど問題の根深さに頭を悩ましています。特に、醍醐地域に大きな影響を与えている公営住宅については、資料だけではなく現地視察を重ねました。洛西地域も似て非なる地域であることを知り、視察の必要性を感じて訪れた次第です。
中間発表を行い、中森先生からは「都市計画などを専門に研究されている先生の考えも聞くべき」とアドバイスをいただけたことはありがたく、ヒアリングを予定しています。また、京都文教大学大学院臨床心理学研究科 濱野 清志研究科長が中間発表会の講評でおっしゃった「もし老朽化した団地や街がしゃべれたら、何と言うだろうか?」というコメントには驚きと共に、問題をあまりにも狭く絞り過ぎていたのではとメンバーで気づきました。解決策を単に形よくまとめたり、一つに絞り込んだりするのではなく、問題を広く、正しく捉えることに注力していきたいと考えています。
「ファイナンスによる京町家課題解決」(ファイナンスチーム)
メンバー/山本安紋、オウ シュンカン、米丸隼太(龍谷大学大学院)、山中智子(琉球大学大学院)
〈テーマ概要〉
ファイナンスによって京町家の課題を解決していく。京町家とは1950(昭和25)年以前に建てられた木造建築物で、京都市では「京町家の保全及び継承に関する条例」「京町家再生プラン」などの条例や制度が策定されている。この背景を、京町家の減少によって京都のアイデンティティを脅かす危機と認識されたためと考察。京町家を保全及び継承するための具体的かつ現実的な施策としてファイナンスによる支援の道を探る。
〈研究・調査〉
京町家の入居者にインタビューを行い、維持管理や相続問題の難しさ、自分が住んでいる家が京町家だと認識していないという意識の低さから取り壊しやマンション・駐車場などへの転用といった京町家が減少するに至った原因を究明。保全及び継承に不可欠な資金に関しては、金融機関では建築的価値が高い、耐震制度など法令を順守した建物でない限り担保できないなどの問題に直面。
〈課題解決に向けて〉
ファイナンスによる支援を実現するためには、京町家という文化的・歴史的価値を、入居者だけでなく、社会で高めていくなど、さまざまなアイデアが必要。
●担当教官コメント/龍谷大学政策学部 内田恭彦教授
私が担当の講義「ソーシャル・イノベーション研究」で学んだPEST分析や歴史分析、さらに琉球大学大学院のメンバーが所属していたことから、京町家と同様の歴史的建築物である「琉球民家」との比較分析も行ったことを評価します。検討事項としては、昨今は京町家の商業的価値が高まっていることによる税制や賃料の高騰、耐震問題といった社会構造が複雑に絡んでいるために、今後はどこに手をつけるべきかを焦点を絞ることが重要になるでしょう。資金支援があれば入居者が積極的に保全・継承してくれるわけではないので、耐震基準や生活様式にどう合わせていくかなどの検討も必要です。歴史的建築物の保全・継承を推進するイギリスやイタリアなど海外の事例との比較検討も有効だと思います。
●ファイナンスチームメンバーコメント
金融機関に勤務しているメンバー、都市計画に興味があるメンバーが所属していることから、京都を象徴する京町家をどのようにして保全・活用していくのか、そのためにはファイナンスはどうあるべきかを、より具体的かつ現実的に検討しています。龍谷大学大学院生と琉球大学大学院生のメンバーが所属しているので、GoogleドキュメントやGoogleスプレッドシートといった共有のプラットホームを設け、考えをまとめたり、作業が完了したりすればLINEでリマインドするなど、こまめな連絡を怠らないようにして、立場や時間、距離の制約を越えたプロジェクトに取り組んでいます。
中間発表会を終えて、改めて実感したのは入居者や京町家の保全を推進する各団体、金融機関へのヒアリングをさらに重ねて、多様な視点から自分たちなりの答えを見つけることです。実際の声こそが実社会で起きている問題の本質へと迫ることにつながります。もちろん、すぐに答えが見つかり、解決できるとは思っていないので、中間発表会で先生にいただいたヒントを基に、テーマをさらに深掘りし、社会実装してもらえるようなものに仕上げていきたいです。
※続きは後編でお伝えします。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」中間発表会 【前編】
[ 2025.9.30 更新 ]
3大学がワンチームで実社会の課題解決に挑むプログラムの重点演習
2025年7月5日(土)、琉球大学附属図書館 ラーニング・コモンズにて、「ソーシャル・イノベーション実践演習」中間発表会が開催されました。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」は、大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラムの核となるキャップストーン科目です。ソーシャルイノベーションデザイナー資格取得にも必要な「総仕上げの、総合的な経験をする実践的なプログラム」として、3つの大学院の受講生が共に取り組み、ソーシャル・イノベーションについて講義で学び、積み上げてきた理論を現実的な社会課題解決のためにどう実践していくのか地域課題の原因からポテンシャルを見抜き、そのポテンシャルと多様な領域の知見を融合させて、どう新たな価値を生むのか、が評価のポイントとなります。
「ソーシャル・イノベーション実践演習」は、まず3大学の担当教員が連携先機関(自治体や企業、NPOなど)と地域の課題(環境問題、人口減少、産業衰退、貧困、地域間格差、共生社会問題、島嶼問題など)について協議し、受講生たちが取り組むテーマ案として、龍谷大学大学院は3つ、京都文教大学大学院は2つ、琉球大学大学院は2つの課題を提示。「ソーシャル・イノベーション実践演習」を受講する17名(龍谷大学大学院11名、京都文教大学大学院2名、琉球大学大学院4名)がどのテーマに取り組みたいかアンケートを行い、4つのテーマが決定。ランダムに編成されたチームごとに、テーマの社会的要因や解決につながるポテンシャルを探究していきます。
中間発表会は、ここまでの研究・調査結果をプレゼンテーションし、立案したソーシャル・イノベーションのアイデアを提案・実践するために12月に開催される最終発表会に向けてのステップとなるもの。当日は、受講生や教職員を含め47名が沖縄に集まり、13名がオンラインで参加しました。
開会にあたって、琉球大学大学院地域共創研究科 本村 真研究科長が「進捗状況の報告と担当教官をはじめとする多くの人の感想や意見によって、自分たちが取り組む課題がより明確となります。また、他のチームの発表を聞くことは今後の参考、刺激になるはずです」と挨拶。琉球大学地域連携推進機構 畑中 寛特命准教授による「ソーシャル・イノベーション実践演習」についての説明の後、4つのチームによるプレゼンテーションが行われました。
今回は、4つのチームが取り組む課題の内容と担当教官のコメント、さらにチームでのプロジェクトの進め方、中間発表を終えての手応えや最終発表会に向けての改善点などをメンバーの声を交えてお伝えします。(順番は中間発表会当日通り)
「醍醐の活性化―醍醐未来創生プロジェクト―」(醍醐チーム)
メンバー/SU JIA、馬玉成、北野嘉秀、大門祥一郎、森田博史(龍谷大学大学院)
〈テーマ概要〉
京都市伏見区にある醍醐地域の活性化をめざす。醍醐地域は1970年代以降のニュータウン開発により人口が大幅に増加。なかでも、地域内の大規模団地には多くの人が入居したものの、近年は減少傾向にある。醍醐地域のポテンシャルを見出し、今後のソーシャル・イノベーションのアイデアの創出に活かしていく。
〈研究・調査〉
人口減少の要因について、歴史的、社会的背景から細かく分析。高齢化や団地の老朽化に伴う転出などの要因だけでなく、地域へのネガティブなイメージといった醍醐地域特有の問題点を抽出。
〈課題解決に向けて〉
世界遺産である醍醐寺を有すといった観光・文化的価値の高さを訴求していくイメージアップ戦略、老朽化は進んでいるもののリーズナブルに入居できるため、京都市が進める「山科・醍醐活性化プロジェクト」との連携、以前あった東部クリーンセンターの広大な跡地の活用など、幅広いアイデアを創出・提案していく。
●担当教官コメント/龍谷大学政策学部 中森孝文政策学部長
社会的・歴史的背景をしっかりと押さえ、なぜ現在の状況になっているのかを見ていること、さらに醍醐地域と同様に大規模開発された京都市の洛西地域との比較を通じて、街づくりの違いを探っている点を評価します。両地域を訪れ、関係者にヒアリングするなど、メンバーが「汗をかいている」ことにも好感を持てましたね。一方、メンバー全員が龍谷大学大学院ということもあるのですが、3大学連携の利点を活かしてほしい。例えば、京都文教大学の先生に話を聞いて、入居者の心理を分析するといった多様な視点から要因に向き合うことも必要だと思います。
●醍醐チームメンバーコメント
フィールドワークにおいて社会課題を知り、考えること、そしてチームで取り組むことが、この大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラムで学ぶ醍醐味だと感じています。メンバーとは全員集まっての視察と議論だけでなく、何か情報を得たりすればLINEで報告するなど、ほぼ毎日のように連絡を取り合っています。
醍醐地域の活性化について、チーム内では案外早く答えが出せると思っていたのですが、知れば知るほど問題の根深さに頭を悩ましています。特に、醍醐地域に大きな影響を与えている公営住宅については、資料だけではなく現地視察を重ねました。洛西地域も似て非なる地域であることを知り、視察の必要性を感じて訪れた次第です。
中間発表を行い、中森先生からは「都市計画などを専門に研究されている先生の考えも聞くべき」とアドバイスをいただけたことはありがたく、ヒアリングを予定しています。また、京都文教大学大学院臨床心理学研究科 濱野 清志研究科長が中間発表会の講評でおっしゃった「もし老朽化した団地や街がしゃべれたら、何と言うだろうか?」というコメントには驚きと共に、問題をあまりにも狭く絞り過ぎていたのではとメンバーで気づきました。解決策を単に形よくまとめたり、一つに絞り込んだりするのではなく、問題を広く、正しく捉えることに注力していきたいと考えています。
「ファイナンスによる京町家課題解決」(ファイナンスチーム)
メンバー/山本安紋、オウ シュンカン、米丸隼太(龍谷大学大学院)、山中智子(琉球大学大学院)
〈テーマ概要〉
ファイナンスによって京町家の課題を解決していく。京町家とは1950(昭和25)年以前に建てられた木造建築物で、京都市では「京町家の保全及び継承に関する条例」「京町家再生プラン」などの条例や制度が策定されている。この背景を、京町家の減少によって京都のアイデンティティを脅かす危機と認識されたためと考察。京町家を保全及び継承するための具体的かつ現実的な施策としてファイナンスによる支援の道を探る。
〈研究・調査〉
京町家の入居者にインタビューを行い、維持管理や相続問題の難しさ、自分が住んでいる家が京町家だと認識していないという意識の低さから取り壊しやマンション・駐車場などへの転用といった京町家が減少するに至った原因を究明。保全及び継承に不可欠な資金に関しては、金融機関では建築的価値が高い、耐震制度など法令を順守した建物でない限り担保できないなどの問題に直面。
〈課題解決に向けて〉
ファイナンスによる支援を実現するためには、京町家という文化的・歴史的価値を、入居者だけでなく、社会で高めていくなど、さまざまなアイデアが必要。
●担当教官コメント/龍谷大学政策学部 内田恭彦教授
私が担当の講義「ソーシャル・イノベーション研究」で学んだPEST分析や歴史分析、さらに琉球大学大学院のメンバーが所属していたことから、京町家と同様の歴史的建築物である「琉球民家」との比較分析も行ったことを評価します。検討事項としては、昨今は京町家の商業的価値が高まっていることによる税制や賃料の高騰、耐震問題といった社会構造が複雑に絡んでいるために、今後はどこに手をつけるべきかを焦点を絞ることが重要になるでしょう。資金支援があれば入居者が積極的に保全・継承してくれるわけではないので、耐震基準や生活様式にどう合わせていくかなどの検討も必要です。歴史的建築物の保全・継承を推進するイギリスやイタリアなど海外の事例との比較検討も有効だと思います。
●ファイナンスチームメンバーコメント
金融機関に勤務しているメンバー、都市計画に興味があるメンバーが所属していることから、京都を象徴する京町家をどのようにして保全・活用していくのか、そのためにはファイナンスはどうあるべきかを、より具体的かつ現実的に検討しています。龍谷大学大学院生と琉球大学大学院生のメンバーが所属しているので、GoogleドキュメントやGoogleスプレッドシートといった共有のプラットホームを設け、考えをまとめたり、作業が完了したりすればLINEでリマインドするなど、こまめな連絡を怠らないようにして、立場や時間、距離の制約を越えたプロジェクトに取り組んでいます。
中間発表会を終えて、改めて実感したのは入居者や京町家の保全を推進する各団体、金融機関へのヒアリングをさらに重ねて、多様な視点から自分たちなりの答えを見つけることです。実際の声こそが実社会で起きている問題の本質へと迫ることにつながります。もちろん、すぐに答えが見つかり、解決できるとは思っていないので、中間発表会で先生にいただいたヒントを基に、テーマをさらに深掘りし、社会実装してもらえるようなものに仕上げていきたいです。
※続きは後編でお伝えします。