領域と距離を越えた3大学連携の魅力とは?
京都文教大学大学院、琉球大学大学院、龍谷大学大学院
3研究科長がプログラム開発に向けて緊急鼎談
-3大学は地域公共政策士という資格を取得できるプログラムを採用しているという共通点があると伺っていますが、その他にも連携を決められた理由はありますか。
中森先生:信頼関係が築ける大学ということですね。そこでまず、お付き合いがある京都文教大学に一緒にやらせていただきたいとお願いに上がりました。
濱野先生:中森先生は本学の産業メンタルヘルス研究所の産業心理臨床家養成プログラムにご参加いただいていますからね。
中森先生:そのご縁もあり、京都文教大学は社会人の学び直しにも理解がおありだと存じておりましたし、何よりソーシャル・イノベーション人材に必要な心理学に関連する知見を提供していただくとしたら、歴史があって優秀な大学院生を多く輩出していらっしゃる京都文教大学しかないと思ったんです。
濱野先生:最初はちょっと巻き込まれ感があったんですが(笑)中森先生からお話をお聞きするうちに、政策学や地域創生という社会変革に向けた強い外向けのメッセージと、我々のように個人をサポートする臨床心理学が繋がり始めてもいい時期なのではないか、協力して何か面白いことができるんじゃないかという気持ちになり、参画させていただくことになりました。
本村先生:3校連携の1校が、芸術療法などで歴史のある京都文教大学だったのは、すごく斬新でした。濱野先生の「やってみたら何か起こるかも」という直感的な行動力があってこそだったのですね。それにしても臨床心理メインの研究科と組むという中森先生の企画力の素晴らしさ。
中森先生:京都文教大学のスキルや知見を融合させ、非言語的な理解を深めることで、会社での上司と部下のギャップや外国人技能実習生とのコミュニケーションなどの社会課題を解決できるな、ほかにもあんなことができるなとアイデアが次々と浮かんでくるんですよ。まさにイノベーションですよね。受講生にも私と同じように感じてもらえるのではないかと期待しています。
濱野先生:我々にとっても全く新しい試みですので、何が起こるか楽しみです。個人のカウンセリングをしたいと思っている人たちは社会課題と向き合うことで視野が広がりますし、臨床心理学そのものを少し発展的に広げていくチャンスだとも感じています。
中森先生:琉球大学は地域公共政策士の事務局の「COLPU」を通じ、地域公共政策に非常に熱心に取り組んでいらっしゃるとお聞きして、連携成立の可能性があるのではないかと考え、お声がけしました。
本村先生:研究科の「地域共創」というコンセプトの中に、「従来にはない解決をどう作っていくか」という点を含めて検討していたので、ソーシャル・イノベーションはドンピシャのキーワードでした。お話しを伺った時、大学院の活性化につながる起爆剤のようなプロジェクトが天から降ってきたと思ったほどです。
中森先生:本村先生は、非常に人格者でいらっしゃるし、いろんなことを丁寧に対応してくださるので、信頼関係が築けるとすぐに確信しました。
濱野先生:私は本村先生とはこのプロジェクトでお知り合いになったんですけれど、スクールカウンセラーをされているバリバリの心理の専門家でいらっしゃって。我々と同じ領域だと近しく感じています。
本村先生:私も同じ思いです。
中森先生:連携を受けていただいてからは、トントン拍子に話が進みましたよね。
本村先生:連携が決まってからは、スピード感やチームワークを特に感じましたね。三大学が一丸となってプロジェクトが進んでいく実感がありました。
中森先生:琉球大学、京都文教大学ともに先生だけでなく3大学の事務スタッフの方も本当に頑張ってくださった。大学院の充実を図っていきたいという共通の思いに向かって、一致団結し突き進めていると感じましたね。
-3研究科が連携しながら、どのような課題に取り組んでいきたいと思っておられますか?
中森先生:まず京都と沖縄の共通の課題でいくと観光にまつわることですよね。京都は観光客が増え潤っているように見えますが、その一方で海外の資本等によって土地が高騰し、家が買えなくなってしまったり、観光客の増加で交通渋滞が社会問題になっていたり。こういう観光振興とまち作りにかかわる課題は、沖縄も抱えていると思います。
本村先生:その通りです。オーバーツーリズムの問題や地域資源の開発など沖縄は観光系だけでも課題が山積していますが、観光地として別格ともいえる京都の先駆的な取り組みをうちの院生が学ぶことで、沖縄に対する提案も変わるのではと期待しています。
※京都市は公共交通と歩行者を優先する取り組みとして、メインストリートのひとつ「四条通」の約1.1kmの区間の車線数を減らして、歩道を拡幅。
中森先生:その一方で全然違う問題もありますよね。例えば京都で言えば北部・南部地域の過疎問題、沖縄でいえば島嶼問題とか。
本村先生:沖縄は子どもの貧困問題も深刻です。子どもの貧困の原因の多くは親の可処分所得の低さにあるので、沖縄で99%を占める中小企業の生産性向上をイノベーションできる力、島嶼性ゆえの不利益性をうまく強みに持って行くアイデアなども京都から吸収して欲しいと思っています。
濱野先生:観光ビジネスや沖縄の独特の産業問題については、遠い世界という感じがちょっとあったのですが、おふたりのお話を聞き、地域固有の問題を抱えているところで働く人たちをどう支援していくかを臨床心理領域で考えていかなければならないと感じました。
中森先生:臨床心理学との共通課題となるのは職場の心理的安全性ですよね。例えば失敗したことを本当に失敗したと職場で言えるかどうか。ソーシャル・イノベーションは、多様化する社会課題を解決するためにさまざまな知見を持ち込んで、時には失敗もしつつ、解決策を探っていくものなので、心理的安全性が脅かされているような環境ではいいアイデアなんて出てこないですから。
本村先生:学校でも同じです。子どももスクールカウンセラーと話してちょっと安心すると、違うアイデアや本人なりの解決、あるいは違う見方が出てくる。中森先生がおっしゃる通り、やっぱり人間、気持ちが安定しないと先に進めないんです。
濱野先生:個人が感じている部分と社会との軋轢みたいなものは、逆に言えば社会を変える突破口になりますよね。産業メンタルヘルスは働く人の心理の話で、本来社会そのものにはタッチしないのですが、このプログラムをきっかけにそこを一つ乗り越えていけるのではないかと思います。
-領域が違う研究科や異なる地域の大学院が連携するからこそ、さまざまな課題に取り組めるということですね。具体的にどのような人材を育てていきたいと思っておられますか。
中森先生:それぞれの大学院が持っている研究の専門的な知見を持ち寄るので、実行力を伴う課題解決力のある人材に育ってくれるのではないかと思います。
本村先生:自分たちの地域で必要とされ、自分もやりがいがあるような生業を立てたり、そこに携われたりする人材になってくれたら嬉しいですね。
中森先生:研究領域だけでなく、あるいは文化的な、あるいは風土的な違いみたいなものを融合させる必要もありますよね。社会課題を解決していくための力を身につけるには、まず多様な地域のことを知り、その地域が抱える課題の存在を知ることが大切ですから。
本村先生:そのいわゆるよそ者の視点というか、慣れ親しんでいると見えないようなことも、違う経験をしてきた人と交流ですることで、見えてくることもありますしね。
濱野先生:学部から入った院生と社会人の院生にも言えることですよね。若い人の素朴な意見ってやっぱりすごく新鮮なので、社会人院生はいい刺激が受けられる。
※龍谷大学政策学研究科イメージ
中森先生:やはりそうですよね。うちは社会人院生と学部卒院生が半々ぐらいなんですが、すごく楽しそうなんですよ。社会人院生が自分の経験を学部卒院生に伝えたり、社会人院生が学部卒院生から最新の分析法を教えてもらったりして。お互いが良い刺激になって、良い研究が生まれているように思います。
本村先生:琉球大学の場合は県外からの入学した院生の存在も大きいです。
濱野先生:いろんな人が混ざる、というのがいいんですよね。
中森先生:近い人同士の融合ももちろん大事ですけれども、多様な人が融合していくことによって、今までにはない相乗効果が生まれますからね。学部卒の学生だけでなく社会人にも受講していただき、さまざまな刺激を受け、社会にイノベーションを起こせる力を身につけて欲しいですね。
3研究科長鼎談【前編】
[ 2024.2.29 更新 ]
領域と距離を越えた3大学連携の魅力とは?
京都文教大学大学院、琉球大学大学院、龍谷大学大学院
3研究科長がプログラム開発に向けて緊急鼎談
-3大学は地域公共政策士という資格を取得できるプログラムを採用しているという共通点があると伺っていますが、その他にも連携を決められた理由はありますか。
中森先生:信頼関係が築ける大学ということですね。そこでまず、お付き合いがある京都文教大学に一緒にやらせていただきたいとお願いに上がりました。
濱野先生:中森先生は本学の産業メンタルヘルス研究所の産業心理臨床家養成プログラムにご参加いただいていますからね。
中森先生:そのご縁もあり、京都文教大学は社会人の学び直しにも理解がおありだと存じておりましたし、何よりソーシャル・イノベーション人材に必要な心理学に関連する知見を提供していただくとしたら、歴史があって優秀な大学院生を多く輩出していらっしゃる京都文教大学しかないと思ったんです。
濱野先生:最初はちょっと巻き込まれ感があったんですが(笑)中森先生からお話をお聞きするうちに、政策学や地域創生という社会変革に向けた強い外向けのメッセージと、我々のように個人をサポートする臨床心理学が繋がり始めてもいい時期なのではないか、協力して何か面白いことができるんじゃないかという気持ちになり、参画させていただくことになりました。
本村先生:3校連携の1校が、芸術療法などで歴史のある京都文教大学だったのは、すごく斬新でした。濱野先生の「やってみたら何か起こるかも」という直感的な行動力があってこそだったのですね。それにしても臨床心理メインの研究科と組むという中森先生の企画力の素晴らしさ。
中森先生:京都文教大学のスキルや知見を融合させ、非言語的な理解を深めることで、会社での上司と部下のギャップや外国人技能実習生とのコミュニケーションなどの社会課題を解決できるな、ほかにもあんなことができるなとアイデアが次々と浮かんでくるんですよ。まさにイノベーションですよね。受講生にも私と同じように感じてもらえるのではないかと期待しています。
濱野先生:我々にとっても全く新しい試みですので、何が起こるか楽しみです。個人のカウンセリングをしたいと思っている人たちは社会課題と向き合うことで視野が広がりますし、臨床心理学そのものを少し発展的に広げていくチャンスだとも感じています。
中森先生:琉球大学は地域公共政策士の事務局の「COLPU」を通じ、地域公共政策に非常に熱心に取り組んでいらっしゃるとお聞きして、連携成立の可能性があるのではないかと考え、お声がけしました。
本村先生:研究科の「地域共創」というコンセプトの中に、「従来にはない解決をどう作っていくか」という点を含めて検討していたので、ソーシャル・イノベーションはドンピシャのキーワードでした。お話しを伺った時、大学院の活性化につながる起爆剤のようなプロジェクトが天から降ってきたと思ったほどです。
中森先生:本村先生は、非常に人格者でいらっしゃるし、いろんなことを丁寧に対応してくださるので、信頼関係が築けるとすぐに確信しました。
濱野先生:私は本村先生とはこのプロジェクトでお知り合いになったんですけれど、スクールカウンセラーをされているバリバリの心理の専門家でいらっしゃって。我々と同じ領域だと近しく感じています。
本村先生:私も同じ思いです。
中森先生:連携を受けていただいてからは、トントン拍子に話が進みましたよね。
本村先生:連携が決まってからは、スピード感やチームワークを特に感じましたね。三大学が一丸となってプロジェクトが進んでいく実感がありました。
中森先生:琉球大学、京都文教大学ともに先生だけでなく3大学の事務スタッフの方も本当に頑張ってくださった。大学院の充実を図っていきたいという共通の思いに向かって、一致団結し突き進めていると感じましたね。
-3研究科が連携しながら、どのような課題に取り組んでいきたいと思っておられますか?
中森先生:まず京都と沖縄の共通の課題でいくと観光にまつわることですよね。京都は観光客が増え潤っているように見えますが、その一方で海外の資本等によって土地が高騰し、家が買えなくなってしまったり、観光客の増加で交通渋滞が社会問題になっていたり。こういう観光振興とまち作りにかかわる課題は、沖縄も抱えていると思います。
本村先生:その通りです。オーバーツーリズムの問題や地域資源の開発など沖縄は観光系だけでも課題が山積していますが、観光地として別格ともいえる京都の先駆的な取り組みをうちの院生が学ぶことで、沖縄に対する提案も変わるのではと期待しています。
※京都市は公共交通と歩行者を優先する取り組みとして、メインストリートのひとつ「四条通」の約1.1kmの区間の車線数を減らして、歩道を拡幅。
中森先生:その一方で全然違う問題もありますよね。例えば京都で言えば北部・南部地域の過疎問題、沖縄でいえば島嶼問題とか。
本村先生:沖縄は子どもの貧困問題も深刻です。子どもの貧困の原因の多くは親の可処分所得の低さにあるので、沖縄で99%を占める中小企業の生産性向上をイノベーションできる力、島嶼性ゆえの不利益性をうまく強みに持って行くアイデアなども京都から吸収して欲しいと思っています。
濱野先生:観光ビジネスや沖縄の独特の産業問題については、遠い世界という感じがちょっとあったのですが、おふたりのお話を聞き、地域固有の問題を抱えているところで働く人たちをどう支援していくかを臨床心理領域で考えていかなければならないと感じました。
中森先生:臨床心理学との共通課題となるのは職場の心理的安全性ですよね。例えば失敗したことを本当に失敗したと職場で言えるかどうか。ソーシャル・イノベーションは、多様化する社会課題を解決するためにさまざまな知見を持ち込んで、時には失敗もしつつ、解決策を探っていくものなので、心理的安全性が脅かされているような環境ではいいアイデアなんて出てこないですから。
本村先生:学校でも同じです。子どももスクールカウンセラーと話してちょっと安心すると、違うアイデアや本人なりの解決、あるいは違う見方が出てくる。中森先生がおっしゃる通り、やっぱり人間、気持ちが安定しないと先に進めないんです。
濱野先生:個人が感じている部分と社会との軋轢みたいなものは、逆に言えば社会を変える突破口になりますよね。産業メンタルヘルスは働く人の心理の話で、本来社会そのものにはタッチしないのですが、このプログラムをきっかけにそこを一つ乗り越えていけるのではないかと思います。
-領域が違う研究科や異なる地域の大学院が連携するからこそ、さまざまな課題に取り組めるということですね。具体的にどのような人材を育てていきたいと思っておられますか。
中森先生:それぞれの大学院が持っている研究の専門的な知見を持ち寄るので、実行力を伴う課題解決力のある人材に育ってくれるのではないかと思います。
本村先生:自分たちの地域で必要とされ、自分もやりがいがあるような生業を立てたり、そこに携われたりする人材になってくれたら嬉しいですね。
中森先生:研究領域だけでなく、あるいは文化的な、あるいは風土的な違いみたいなものを融合させる必要もありますよね。社会課題を解決していくための力を身につけるには、まず多様な地域のことを知り、その地域が抱える課題の存在を知ることが大切ですから。
本村先生:そのいわゆるよそ者の視点というか、慣れ親しんでいると見えないようなことも、違う経験をしてきた人と交流ですることで、見えてくることもありますしね。
濱野先生:学部から入った院生と社会人の院生にも言えることですよね。若い人の素朴な意見ってやっぱりすごく新鮮なので、社会人院生はいい刺激が受けられる。
※龍谷大学政策学研究科イメージ
中森先生:やはりそうですよね。うちは社会人院生と学部卒院生が半々ぐらいなんですが、すごく楽しそうなんですよ。社会人院生が自分の経験を学部卒院生に伝えたり、社会人院生が学部卒院生から最新の分析法を教えてもらったりして。お互いが良い刺激になって、良い研究が生まれているように思います。
本村先生:琉球大学の場合は県外からの入学した院生の存在も大きいです。
濱野先生:いろんな人が混ざる、というのがいいんですよね。
中森先生:近い人同士の融合ももちろん大事ですけれども、多様な人が融合していくことによって、今までにはない相乗効果が生まれますからね。学部卒の学生だけでなく社会人にも受講していただき、さまざまな刺激を受け、社会にイノベーションを起こせる力を身につけて欲しいですね。